有/閑/二/次/小/説/のブログです。清×悠メインです。 当サイトは、原作者様・出版社等の各版権元とは一切関係ございません。 最初に注意書きをお読みいただければと思います。
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-5-
悠理は、昇降口のほうで博人と待ち合わせた。ほとんど下校しており、昇降口にはポツリポツリとしか人がいなかった。
「じゃあ、帰りましょうか。」
「うん。」
外に出るとポツリポツリと雨が降り始めていた。
「やっぱり、ここまで迎え、きてもらおうか。あたし傘ないし。」
そう悠理がいうと、博人は自分の傘を広げ、悠理を引き入れた。
「こうして歩けばいいでしょ。」とにっこり笑いかける。
「まあ。…そだな」
悠理は照れくさそうに頭をかいた。
そんな悠理をみて、博人は微笑んだ。
ふれそうでふれない距離に、少し博人はもどかしさを感じる。
「今日は駅でお別れなんだよね?」
駅までの10分ほどの距離を一緒に帰る。もう少し長く一緒に歩きたい博人は悠理に聞いた。
「まあ…。もう迎えをお願いしたしなぁ。」
「残念だな。僕はこうして、もう少し歩きたいな…」
博人はさびしそうな顔をして微笑んだ。
「な…っ!!」
何馬鹿なことをいうんだよ!!恥ずかしいじゃないか、と悠理は言いたかったが「な、」で止まった。
一応、今はデートといえば、デートだし。
あんまり相手のことを考えないで発言するものではないか、と、さびしそうな博人の顔をみて理性が働いた。
傘からはみ出したスカートの裾が、雨に濡れる。
ちょっと濡れて気持ち悪いなと悠理は思う。駅が近づいてきた。
雨も少し強めに降ってきた。狭い路地で、向かい側から車が近づいてくる。博人は悠理を壁際に引き寄せて、車を避けた。
博人は傘をななめにして水はねで悠理が濡れないようにする。
悠理の背中に手を回して。
車が通りすぎたのに、博人は悠理の背中に手を回したままだった。
「博人?」
不思議に思って、悠理が聞く。
その瞬間、悠理は何が起きたのか理解できなかった。
博人の顔が悠理に近づいてきて悠理の唇に博人のやわらかな唇が触れた。雨のせいか、冷たい。
--えっ?
ふと、悠理の脳裏に清四郎の顔が浮かんだ。
--せいしろう。
心の中でつぶやく。心に鈍い痛みが走る。
と、その時、傘越しに「お兄ちゃん!」という声がした。
その声で悠理は我に返り、博人を突き飛ばした。博人は壁にあたる。
「お兄ちゃん。大丈夫?」
ふわふわの長い髪をした美少女が博人に駆け寄った。中等部に通ってる博人の妹の絵里香だった。絵里香は悠理を睨みつけた。
「お兄ちゃんに何するのよ!!野蛮人!!!」
悠理はふっと悲しげに笑った。
「ごめん、博人。あたしはお前とつきあえない。」口が勝手に思いを告げる。
元来た道を走って引き返していた。
「悠理さん!!」
博人は大声で叫ぶも、絵里香にしがみつかれて、動けなかった。
-6-
悠理が先に帰ったあと、清四郎以外の有閑倶楽部のメンバーは、魅録の家にいくために帰った。
清四郎は生徒会の雑用が終わらなかった。雑用をしながら悠理のことを考えてしまう自分がいた。こんなんじゃ終わらないと思いつつも、気を抜くとぼーっと考えてしまう。
今日は、一度も、視線を合わせなかった。
はにかんだ笑顔を博人に向けた。
デートの話を顔を赤らめながら話した。
ザアァ…。
雨音がいっそう強くなる。
遠くのほうでは雷がなっていた。
--厚い雲は、僕の心、みたいですね。
自分でもよくわからない悲しみと喪失感が襲っている。
何を間違ったんだろう?
何がいけなかったんだろう?
博人はいい人そうだ。悠理のことは祝福してあげるべきでは?
と思うが、そう思えば思うほど、喪失感が増幅する。
作業をする手が止まる。
--今日は全然進まないし、早く帰りますか。
清四郎は苦笑した。
悶々としてる自分がいる。
自分と悠理の関係といえば釈迦と孫悟空。それ以外のなんでもない。なのに、悠理のことが気になる。悠理には、自分にだけ笑顔を向けてほしいと思う。
作業していたものをロッカーにしまい、荷物をまとめ、電気等を消し、生徒会室のカギをかける。
昇降口ほうをふとみると、ズブ濡れの女が廊下を歩いてきた。
「悠理!」
駆け寄るとよわよわしく笑った。
「まだ電気がついてたから、いると思って。…もう、清四郎は帰るの?」
「ええ。でも、風邪ひきますから、中に入って…、濡れた髪をふきましょう。」
鍵をあけて中に入れ、悠理がおきっぱなしにしていた私服に着替えさせた。着替えてる間にお湯を沸かし、紅茶をいれる。
「これでも飲めば少しは温まるでしょう。」とカップを手渡した。
「ありがと。」ずるずると紅茶をすする。
「なんか、ほっとする。」
清四郎と向かいあって椅子に腰掛けていたのだが、悠理がカップを持って隣に移動してきた。
そして清四郎の肩に頭をもたれかけさせた。よく乾いてないので、シャツに髪の毛の水滴の染みが広がる。
「少しだけ、こうしてたい。」
一言いうと、黙り込んだ。悠理の眼から涙が溢れ出す。
鳴咽があがる。
「何かあったんですか?」
答えない。
「悠理」とカップをテーブルにおき、自分の方を向かせた。
鳴咽はあがっていたが声を出さずに泣いていた。
そんな泣き方をしている悠理を見るのは初めてだった。
「どうしたんです?」
「あたし…、博人と付き合えない…」
「もう振られたんですか?!」
「違う…」
悠理は頭をぶんぶん振った。水しぶきが清四郎に飛び跳ねる。
「じゃあ、どういうことなんです?」
顔にかかった水しぶきを手で拭きながら聞いた。
「あたし、博人にキスされた…」
清四郎に動揺が走る。鋭いナイフで胸を刺されたような気がした。
「…いま、なんて?」
清四郎の問いには答えず、悠理は清四郎の目をじっと見つめる。
「でも、あたし、だめだった…」
そういって、悠理は清四郎の腕をぎゅっとつかむ。
「あたし…、清四郎じゃないとだめなんだ」
涙があふれてこぼれ落ちる。
「清四郎に…そばにいてほしい」
「悠理…」
清四郎は考えるよりも先に悠理をぎゅっと抱き寄せた。
雨にぬれた髪が清四郎の顔にあたる。
悠理のシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
腕の中に悠理がいて、安心する。
が、心臓は激しく高鳴っていた。
心臓の音が悠理に聞こえそうだと清四郎は思った。
外は少し明るくなり、雲の切れ間から一筋の光が差し込んでいた。
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2005
基本的に、雨の設定が好きみたいです。わたし。
2017.4.12
もともとの終わり方を変えました。
というか、だいぶ書き換えているかも。
-3-
月曜日に、たまたま2年生の教室のある廊下を清四郎は通っていた。3人の男子学生の話し声が聞こえてきた。
「楯野川、剣菱に告ったみたいだな。」
「すげーな、それ。剣菱なんてどこみたら女に見えんだよ。」
清四郎は思わず吹き出しそうになった。
--そうそう。
「ん~、でも楯野川ならありかも。あいつシスコンだから。」
「中等部のかわいい妹か?」
「ちがうよ。姉だよ、姉。」
姉という言葉に一瞬ドキッとする。
--僕の家にも恐ろしい姉がいる。
ふと思い出して、頭をぶんぶんと振ってしまった。
--そうじゃない。
続きを聞く。
「あいつのね~ちゃん、かっこいいんだって、まじで。俺も1度会ったけど、なかなかおもろいんだ。剣菱に雰囲気似てるな~。全然薫さんの方が色っぽいケドさ」
「へぇ~。じゃあ、よく高等部に顔を出す妹のほうは、ただのブラコン?」
「たぶんな~。春菜ちゃんは薫さんを嫌いみてぇだから、楯野川大変らしい。」
--悠理に似た姉ですか…。
そこへ悠理が現れる。
清四郎はドキッとする。
悠理の手にはハンカチが握られていた。
「なあ、お前ら」
悠理は3人に声をかける。
「楯野川、呼んでくれない?」
「はい」
1人が博人を呼びに行く。
悠理は暇そうに髪を触ったりしている。
が、すぐに博人がやってきた。
「悠理さん」
「これ…」
ハンカチをはにかんだ風に悠理が渡す。
「わざわざよかったのに」
博人が微笑んだ。
清四郎はこっそりその様子を伺うつもりだったが、さすがにいつまでもその辺りに隠れてる訳にもいかず、素知らぬフリをしてとおり過ぎようとした。
「あ、清四郎。」
悠理に呼び止められる。
「楯野川博人くん。」
紹介された。
紹介する一瞬、博人の顔をみる悠理は恥ずかしそうに微笑んだ。
自分の知らない悠理をみたような気が清四郎はした。
「はじめまして菊正宗さん。悠理さんとは以前、婚約されてましたよね。愛のない婚約の話は悠理さんから聞きました」
さわやか美少年にそういわれ、清四郎は心臓に矢を放たれた心境となった。早い話が傷ついた。
--愛のない婚約。ひどくブスッとした顔での記者会見。…ぼくは悠理を剣菱の付属品と考えてた。
「菊正宗さんにとっては、悠理さんの気持ちはどうでもよかったんですよね?。…いまの僕からすれば、破談になってくれてよかったです。」
清四郎は黙り込んだ。確かにあのときの清四郎の頭の中にあったことは剣菱を動かしたいということだけだった。
「博人。こんなとこでこういう話はやめよう。」
「ごめん、悠理さん。」
清四郎は「失礼するよ。」と、その一言をいうのがやっとだった。
思い出す昔の失敗。そして悠理のはにかんだ笑顔。清四郎の心の中に強い…絶望という名の風が吹いた。
--もう、手に入らないかもしれない。
あのときの自分を悔やむしかなかった。
-4-
その日の放課後。
美童、魅録、悠理、野梨子の4人は生徒会室に来ていた。
美童と魅録は、野梨子の囲碁講座を熱心に聞いていた。美童は新しい彼女が囲碁好きだったため、魅録は清四郎を負かすためであった。
悠理は3人とは離れて、煎餅を噛りながら外をぼんやり眺めていた。
--なんで博人は清四郎にあんなことを。言わなくともいいことなのに。
なんとなく、気持ちが暗くなる。
そこへ可憐がきた。
悠理の隣に椅子をもってくると「デート、どうだったの?悠理。」と聞いた。
魅録、美童、野梨子が振り返る。悠理は真っ赤になる。
「なんで知ってるんだよ。清四郎から聞いたのか?」
--清四郎とデートしてたのか?
可憐以外は、皆、心の中で呟いた。
「違う違う。あんたたちが手を繋いでアイス食べてたのをたまたま見かけたのよ。なかなかいい感じじゃな~い」可憐が含み笑いをする。
「そんなことないじょ!!」
悠理は否定する。
「何がそんなことがないんですか?」
「清四郎…」
可憐以外の3人がいま生徒会室に入ってきた清四郎をみる。3人はまだ誤解したままだった。
「どうかしましたか。」
「なんでもないですわ。」野梨子が取り繕うように答えた。
清四郎は椅子に座ると書類に目を通し始めた。なんとなく悠理を見れず、悠理も清四郎を見なかった。
「で、どこにいったよ~。」ひじでつつきながら、可憐は悠理にツッコミをいれる。
「映画、食事、アイスだけだよ!」
「ふうん。手を繋ぐ以上は何もなかったの?」
「そんなのはないよ!」
悠理は恥ずかしそうに喚きながらいう。
「なぁんだ。まぁ、悠理だし~、おこちゃまだから仕方ないわね。」
可憐がくすくす笑うので、ぷうっと悠理は膨れた。
清四郎は興味ないふりをして、黙々と書類に書き込みをしていた。
心の奥のほうで悠理と博人が手をつないだことがひっかかった。
--これから二人は始まるのか…。
暗雲が心全体に広がっていくようだった。
野梨子は憂鬱そうな顔をする幼ななじみに気付いた。
--こんなとこで、こんな話をされるのが、嫌なんですわね…。
と誤解がとけていないので、違うことを思ってた。
清四郎の心に広がる暗雲が、そのまま天気に反映されてしまったのか、外は雨雲で暗くなってきた。
「雨が来そうね~」可憐がつぶやく。
そのとき悠理の携帯がなった。メールが届いた。博人から「一緒に帰りませんか」というメールだった。
「あたし、帰る。」ちょっと怒った口調で悠理がいった。
可憐が笑いながら「あ、誘われたのね」と悠理をつつく。
「違う!帰るだけだじょ。」また赤くなりながら、荷物を手にとる。
「じゃな。」と可憐と3人に顔を赤くしたまま手をふる。清四郎のほうを、一度も見なかった。
3人は初めて相手が清四郎ではないことに気付いた。憂鬱そうな清四郎をみて、魅録と美童は不敏に思った。
--娘を彼氏に取られた父親の心境か?
魅録は思った。魅録は悠理を女性としてみたことがなかったので、魅録自体も親離れする息子くらいにしか思えなかった。
美童は、清四郎が悠理をいじめているときの瞳の奥の優しさに気付いていた。
--動かないから、取られちゃうんだよ、清四郎。
-1-
憂鬱な顔をして、生徒会室内に悠理は入ってきた。
「どうしました、悠理?」
気になったので、清四郎は悠理に尋ねた。清四郎は生徒会室に一人で居た。
何も答えずに、悠理は清四郎の近くの椅子に座ろうかどうか迷っていた。
迷った末、椅子に座ったが、だんまりだった。
答えたくないのであればと、清四郎はあえてそのまま突っ込まずにいた。
沈黙に耐えられなくなったのか、暫くしてから、悠理が口を開いた。
「2年の楯野川博人に告白されたよ。」
楯野川博人といえば、わりと大きい私鉄を持っている楯野川グループの御曹司である。ナイーブな感じで少し茶色の柔らかそうな髪をした、瞳の綺麗な美少年だった。
「よかったじゃないですか。」
「デートしようって言われた。どうしたらいいんだよ」
喚く。
「デート?」
悠理はこくりとうなずいた。
「別に…、普通にいけばいいじゃないですか。楽しいかもしれませんよ」
にこやかにいいつつも、清四郎は胸の奥に鈍い痛みを覚えた。
変ですね…?
「楽しいかどうかなんて、行ってみないとわからないじゃないか!!」
さっきからそういっているのに…。
清四郎は呆れる。
「で、デートは承諾したんですよね?」
そもそものことを聞く。
悠理は赤くなって頷いた。
清四郎はそんな悠理を見てなぜか胸がもやもやした。そして、とても嫌な気持ちがした。
一言でいえば、不快だった。
悠理が清四郎に甘えた声でいう。
「…あたし、まともにデートなんてしたことないから、どうしたらいいかわかんないよ。お前ならどうする?」
「どうすると言われても…、それは悠理の問題ですから、普段どおり適当に相手をすればいいじゃないですか。」
少しきつめに清四郎は答えた。
甘えた感じの悠理の声も不快だった。いつもはそんなことはないのに。
清四郎の答えに対して、悠理は押し黙った。
しばし沈黙した後「そっか。」と一言残して、”じゃあ”とも何とも言わずに生徒会室を出て行った。
それも清四郎は不快だった。
挨拶くらいすればいいのに。
ドアが開いて入れ代わりに野梨子が入ってきた。
「清四郎、いま悠理が何か考えごとをしながら出ていきましたけど何かいいましたの?」
清四郎は何も答えない。
黙々とPCに向かって作業をしている。
しかも少し怒っている。
「ふたりとも変ですわ…」
野梨子は困惑して、ため息をついた。
-2-
次の土曜日、悠理は待ち合わせ場所の駅で博人を待った。こんな風に待つための暇つぶしをする場所もないところで人を待つということは、ありえなかった。だいたい店の中など暇つぶしができる場所で待ち合わせる。
しかも初めてのデートで緊張してたせいか落ち着かず、10分も早くきてしまった。手には汗をかいていた。
「ごめんなさい、待たせてしまいましたね、悠理さん。」
それでもあんたは早いから。
だっていまは5分前。
悠理は慣れないシチュエーションに緊張し、心の声はダダ漏れにはならず「いや、そんなに待ってない・・・。」と小声で言った。
服で手を拭う。
なぜ、こんなに緊張してるんだ、あたし…。
悠理自身、戸惑っていた。ただの待ち合わせで、たいしたことをしているわけじゃないのに、すごく緊張してる。
「じゃあ、行きましょう。」
博人は悠理の手を引こうとした。
悠理は汗をかいてるのが恥ずかしくて素早く手をひっこめた。
「どうしました?」
「あたし、汗かいてるし。」
初めてのデートにもかかわらず、最初から手をつなごうとされたということに悠理は気付いておらず、博人は苦笑した。
「じゃあ」
そういってポケットからハンカチを出すと、悠理の手をとり、博人は悠理と自分の手の間にハンカチをいれた。
「これなら、気にならないでしょ」
そういうと悠理の手をつないで歩きだす。手と手の間のハンカチが僕と悠理さんの距離を表しているみたいだ、と博人はぼそりと呟いた。
一方、悠理は博人のぬくもりをハンカチごしに感じていた。
動物を扱うように悠理を触る皆とは異なり、こういう気遣いがとても新鮮だった。
映画館に到着する。
「悠理さんは動物が好きそうだったので、動物ものの映画を選んでみました。」
博人はさわやかに笑顔を向けると、事前に購入していたチケットを出した。
「ありがとう」
悠理はとりあえず、礼をいう。
アクションもののほうが好きだじょ・・・
心の中でつぶやく。
が、映画自体はとても面白いものだった。
悠理は感動し、わんわん泣いてしまった。
博人がはさんでくれたハンカチで涙を拭きながら。
そんな様子をみて博人は、悠理が素直でかわいいな、と思う。
映画を見終えたあと、イタリアン系のあまり高くないレストランに行った。結構OL風の女性が多いレストランで、高校生の二人はなんとなく浮き気味だった。
「客層がちょっと違いましたね。この店、姉から教えてもらったので。」
博人が苦笑する。
悠理はそうか?といいつつ、黙々とたべる。
「悠理さんはお兄さんがいるんでしたよね」
「そだよ。楯野川…さんは」
「博人で」
「えっと、じゃあ博人は?」
「うちには10個離れた姉と8つ上の兄と2つ下の妹がいます。姉と兄は母親が違います。姉達の母は亡くなったので。いま姉はOL、兄は父のサポートしてますよ」
「お姉さんは、普通にOL?」
「そうなんです。OLっていうのとは少し違うかな。実は外資系企業のエンジニアしてます。作業服着て仕事してます。今度、姉は悠理さんにあわせたい。なかなか面白い姉ですよ」
そういいながら楽しそうに笑う。
楽しそうに姉のことを話す博人を悠理はほほえましく感じた。
食事を終え、店を出て、ふたりは街をうろうろした。普段行かないような高校生が多い街に行く。
「悠理さん、こういうとこ、来ないでしょう。」といいつつ、苺のアイスクリームを手渡した。
「うん。」
清四郎や美童たちだったら銀座とか行きそうだった。
アイスクリームは甘くてひんやりしておいしかった。
ただちょっと自分のいる場所に違和感を感じていた。
--あたし、なぜ、ここにこの人といる?
---
2005.
(2017/4/5 加筆修正)
この話しは、一番最初に書いたものだったのですが、ボツネタ行になっていました。
展開がありがちなので。
ただ、今回、ちょっと直して、載せようかと…。
-9-
夜、食後、宴会が男性部屋で始まった。
地酒を買い込んで飲む。
午後11時。
一升瓶が2本、空いている。
野梨子は、明日、用事があり、早々に帰るので、「寝ます」と言って、去っていった。
可憐と悠理と美童は赤ワインを開けはじめ、清四郎と魅録は四合瓶の日本酒を開けた。
「分かれるもんだね。お酒も」
美童がいう。
彼も結構、酔っ払ってきた。
可憐に微妙にからんでいる。
「可憐のパンツみても嬉しくないけどさー。1回くらい、可憐と寝てみたい。」
「うるさいなー、スケコマシ!。私は美童なんかと寝ないわよ。馬鹿じゃないの。」
「馬鹿って、可憐。」
「私、まだ玉の輿、狙ってるんだから!」
まぁ、相変わらずの会話ではあったが…。
「でもさぁ、可憐。」魅録が口を挟む。「やっぱり、接客業やったほうがいいって。可憐らしいし。」
「だから〜、私は玉の輿なんだってば。」
悠理はそんな会話を後ろで聞きつつ、部屋の外へ出た。
−−酔っぱらったかな…。
男性部屋のドアにもたれかかり、ふぅ、と息をついた。
通路の窓には、大きな月が映っていた。
−−ちょっとだけ、月を見てこよう。
結構な千鳥足で、自分の部屋とは反対側へ歩き出した。
清四郎は3人の話を上の空で聞いていた。
今日の悠理をぼんやり思い出していた。
−−悠理の印象が変わったな…。
悠理が出て行ったのを見送って、水が飲みたいな、と思い、通路に出た。
悠理が部屋とは逆方面に歩いていくのが見えた。
−−どこに行くんだ?
ついていく。
中庭に出られるところがあり、そこから、サンダルを履いて、外に出て行くのが見えた。
清四郎もサンダルを履いて外に出る。
すると、ベンチに座って、ぼんやり月を見ていた。
「悠理。部屋に戻らないんですか。」
声をかけるとゆっくり振り向いた。
「うん。酔ったから、風にあたりたかった。」
「もう、9月だし、あまり長い時間いると冷えますよ。」
そういいながら、清四郎は悠理の隣に腰掛ける。
「そだね。」
ぼんやりと言う。
昼間とは大違いな緩慢さ。
「明日でさ、帰るんだよね。みんな。」
「そうですね。」
「年々、皆、変わっていくよね。それぞれ、違うところで、自分の人生を歩みはじめてるからなんだよね…。」
−−一番変わったのは、あなたです。
「清四郎も野梨子も、昔みたいに、仲良しじゃなくなったし、わたしと魅録もいまだに仲のよい友達ではあるけれど、彼に彼女が出来たことによって、友情にもひずみが生じてしまった気もするし…。」
「うん。」
黙って頷いた。
「美童もいまの彼女以外は見えてなくて、可憐は相変わらずだけど、自分の方向を決めつつある。」
月を見上げる。
「わたしは、何も変わらない。就職活動も、自分が何か変わればと思ってやっているだけだし。そう思うと、自分だけ置いていかれてしまったような気がして、とても寂しい。」
「悠理…」
悠理は清四郎の方を見た。
すると、ゆっくり立ち上がる。
清四郎の方を見ると、寂しげに顔を一瞬ゆがめた。
そのあと、ふっと笑った。
そして悠理は少しかがむとゆっくりと清四郎の唇に自分の唇を軽く重ねた。
−−!!!
悠理がさっと唇を離した瞬間、昼間とは違い、石鹸の香りがした。
清四郎はとても驚いて、硬直してしまった。
そして、悠理は、そのまま「おやすみ」というと、立ち去った。
清四郎の心臓は、飛び出しそうなくらい、激しく波打った。
悠理の香りが、清四郎に刻み込まれた。
-10-
翌朝。
野梨子は1人で食事を終えると、ホテルのバスに乗って、駅へ向かった。
昼から、彼のいるオケ部のコンサートがあり、そのために早く帰ったのだった。
「可憐〜、朝ごはんに行こうよ〜。」
「駄目よ、もう少し寝かせて。私、二日酔いで頭痛いの。」
「…。」
仕方なく、悠理は1人で食事会場へ向かった。
すると清四郎が1人でいた。
「おはよう。清四郎。」
「おはよう。悠理。」
とりあえず、真向かいに座る。
「美童と魅録は?」
「部屋で寝てますよ。」
「そう、可憐も。昨日、一体、どのくらい飲んだんだろう?」
「さあ。」
一見普通の会話だった。でも、お互いに夜のことは意識していた。
−−清四郎、忘れててくれないかな…。
−−悠理、覚えているんだろうが…。
各々思っていることは別々だったが。
悠理は、昨日の自分の行動を酔った上でとはいえ、反省していた。
−−わたし、キス魔ではないんだけど。
なぜか、あのときは、清四郎にキスがしたかった。
振り返ると月明かりで、とても綺麗に見えたから。
お酒で多少上気していた顔が、色っぽかったから。
清四郎は、実はあのあと、暫く、あのままだった。
やわらかい唇の感触を指でなぞっていた。
理解できない悠理の行動を理解しようとして。
でも、結局、何もわからないまま、部屋に戻った。
部屋に戻る道で、心臓の爆音は消えていたが、なんとも甘い感情が胸に残った。
しかし、部屋に戻ったら、それは打ち砕かれてしまった。
部屋を出るときに開け始めたワイン、日本酒は空になっていた。他に2本ほど、ウィスキーが空いていた。
そして、雑魚寝状態の魅録と美童。そして、ちょっと離れたところに可憐。
とりあえず可憐を起こして、部屋に送り届けた。
”この人たちは…。1時間も経たないうちにこんなに飲むなんて…。”
そう思いつつ、部屋を片付けたのだった。
「あの人たち、起きますかね…」
「ほんと。チェックアウト10時なのに…。」
「一応、二日酔いの薬、飲ませましょう。」
「そだね。」
会話は上滑りするばかりだった。お互いに昨日のことには一切触れなかった。
-11-
食事を終えて、部屋に戻ったが、まだ、3人ともボロボロだった。
美童はずっとトイレで吐いている。
「俺らさぁ…。あとから帰るから…。先に帰ってて…。」
魅録は旅館の浴衣のまま、頭を押さえつつ、清四郎にいった。
「私も、駄目、少し休んでから帰る…。」
可憐もなんとか洋服は着て、男性部屋に悠理と来たが、来るとすぐにソファの上に座り込み、そこで、突っ伏している状況だった。
「のみ過ぎなんですよ…。全く…。」
清四郎が呆れながら薬と水を配布する。
「じゃあ、こっちの部屋だけ、延長しましょう。可憐は、ソファでいいんですよね?」
「うん。」顔を上げずにいう。
「あれ?そういえば悠理は?」
魅録が顔をしかめながら言う。相当頭が痛いらしい。
「いるよ。」
荷物を持ったまま、ドア付近に立っていた。美童を見ていたらしい。
ノースリーブの青の透け感のある同じ紺の花柄のワンピースをきていた。
−−なんか、違う…。
3人は思った。
−−なんでワンピなんだ(魅録)。
−−悠理が美人に見えちゃってるじゃない(可憐)。
−−かわいい!(清四郎(ポッ))。
ん?と清四郎は思った。なんでかわいいなんだー!!!と心の中で叫んだ。
−−悠理なんて猿じゃないかー。
かわいいと思ったのが、悔しかった。
「なんでみんな変な顔してんの?」
「あ〜、なんか今回、悠理にペース狂わされっぱなしだわ。」
可憐は突っ伏したまま叫んだ。
「俺も」魅録も頭を押さえながらいう。
「わたし、何もしてないじゃん…。」
「そうだけど…。こんな悠理だったら、付き合ってもよかったな〜。」
「何、言ってんだ?魅録。」
悠理は呆れた顔をする。
「第一、おまえの彼女、怖いからやだよ〜。張り合いたくない。」
ほんとに怖そうだった。
「そんな怖い彼女とつきあってるの?魅録。」
「そんなことないけどさ。…ってどうでもいいだろ。頭いてぇ…。」
魅録はそのまま、突っ伏してしまった。
「私も、気持ちわるーい。美童、いつまでトイレ入ってんのよ〜。」
美童、可憐、魅録の3人は、そこから動こうともしなかった。
「じゃ、とりあえず、レンタカー返して、帰りましょうか。」
「うん。」
清四郎と悠理は2人で帰ることにした。
2人で帰れることが、清四郎は嬉しかった。
-12-
車に荷物を入れると、ナビを設定した。
「郡山乗り捨てで、帰りましょう。」
「OK。」
「どこか、寄りますか?」
「ううん。別に、どこにも寄らなくともいいよ。新幹線の中で、お弁当を買おう♪」
嬉しそうにする悠理。
「でもせっかくだから、湖、一周してから帰りませんか。」
「いいよ。」
−−やっぱり、食い気なんですか…。昨日のは、やっぱり、夢だったんだろうか…。
たわいもない話をしながら、湖沿いを走る。
でも、清四郎は、話をしながら上の空だった。
気になってしかたがなかった。
悠理も昨日のことは気にかけてはいたのだが、あえて知らない振りをしていた。
せっかく、こうして一緒にいる時間が、今以上に気まずいものになってしまいそうな気がして。
「少し、歩きませんか。」
清四郎が切り出す。
途中、歩けそうなところで、悠理は車をとめた。
暫く歩いたところで、「こっちの湖も、綺麗だね。」と悠理がぎこちなく微笑む。
昨日のことを意識しているのが明白だった。
それに後押しされるように、清四郎が切り出す。
「悠理、昨日のことなんですけど。」
「うん。」
−−やっぱりか…。
「どうして、あんなことを…。」
清四郎はあえて冷静を装って聞いた。
本当は、いまにも心臓が飛び出しそうだった。
「…なんとなく。」
−−なんとなく!?で、ぼくが寝られないくらい、悩んだんですか…。
脱力した。
「…清四郎が綺麗に見えたから。」
「悠理…、そういう理由で…。」
半ば呆れて言う。
−−そう、そういう奴だ。人の気も知らないで…!
清四郎はちょっと怒りモードになりつつあった。
「怒るなよ、清四郎。わたしのファーストキスだったんだから。」
顔を赤くして慌てた様子で悠理が言った。
「…!!!」
その言葉で、怒る気が一気に失せた。
次の瞬間、悠理を抱きしめていた。
香水の匂いが鼻をつく。
「清四郎…。」
悠理の心臓の鼓動が早まる。
「ばか悠理。」
悠理は、清四郎を見上げた。
「キスは、こうするんです…。」
一瞬、悠理の顔を見て、微笑かけると清四郎の顔が近づいてきた。
唇が触れる。
悠理は清四郎に両手で顔を挟まれ、少し顔を斜めにされる。
清四郎の舌が悠理の舌に絡めまってくる。
悠理は頭の奥がしびれるような感じがした。
どのくらいキスをしていたのか。
唇を離すのが名残惜しいように、清四郎はゆっくり悠理から唇を離した。
「帰りましょうか…。」
「うん。」頷いたが、すっかり力が抜けてしまって、ふらついた。
悠理の腰に手をあてて、清四郎は歩き出す。
車に乗り込むと、「…彼女とは別れます。」と静かに言った。
「悠理のことが好きになってしまったみたいです…。」
悠理の顔が一瞬、輝き、そして清四郎に抱きついていた。
お風呂から上がって、いちおう洋服を着て、食事会場へ向かった。
魅録たちが着いたのは夕飯ぎりぎりだった。「ごめん、道が混んでて。」と魅録が謝りながら食事会場に入ってきた。隣には清四郎もいた。どちらも余り変わらない。清四郎はオールバックをやめて、適当に前髪をおろしていたが。
「それにしても。プレジデントの3人は変わったな〜」
そういいながら魅録は席に着いた。悠理の向かいに座る。悠理の隣は清四郎。その隣が可憐。可憐の向かいが野梨子。そして美童は魅録の隣。
酒を飲みながら、食事をする。
食事をしつつ、可憐、魅録、清四郎は悠理を時々盗みみた。
−−変わったなア…。
がっついてものを食べずに、よく噛んで食べていた。そして、乱暴な言葉遣いが減っている。
−−何があった?
3人は不審な思いでいっぱいだった。
特に清四郎は悠理が魅録と話しているときに時々ふと見せる穏やかな笑顔にドキッとした。
−−お母さんが"悠理ちゃんが変わった"と言っていたのはこれでしたか。確かに変わりましたよ…。僕が柄にもなくドキッとしますし。
「清四郎、何?わたしの顔になんかついてる?」
「いえ、何も。」顔を赤らめる。
「そうよ〜、悠理の顔、さっきからほうけたように見てるわよ。」可憐が突っ込んだ。
慌てて清四郎は否定する。
「ほうけてなんてみてませんよ!ただ大口あけて掻き込んで食べてないな、と思ってただけです!」
「あ〜、それは俺も思ってた。やっと、男でもできたのか?」と魅録。
−−できるわけ、ないじゃん。
悠理は心の中でつぶやく。できてれば、今ごろ、もっとハッピーな顔していたよ。
「あたしも不思議に思ってたのよ」と可憐。
美童と野梨子はクスクスと笑い出す。
悠理は少しかっこつけて「知りたい?」と聞いた。
「う、うん。」3人は声を揃えた。
「じつは。」
「じつは…。」
「就職活動してんだ。わたし。」
「就職かつど〜う!」声を揃えて驚く。
「自分の家があるじゃない。」
「う〜ん、ま、親に頼らずに自力で生きてくっていうのも一つの選択肢としてありかなと。」
悠理は自分でいいつつ、かっこい〜い!と思った。
3人はポカンと口を開けた。悠理の口からそんな言葉が出るとはおもわなかった。
可憐はフォークを落としそうになった。
「また悠理、そんなこと言って。」野梨子が突っ込む。
「就職課の人の売り言葉に買い言葉ですのよ。”どうせ就職出来たとしても、自分の家関係でしょ”って言われて、家関係以外に就職するとたんかきって来たらしいんですの。」
「それだけじゃないよ!楽しいOLライフを過ごすんだ。財布1つ持って、制服きて同僚とランチ!」
威張っていう。
「な〜んだ、そんなことか。」
3人は一様にがっかりした。そんな中、1人清四郎はがっかりしつつも微笑んでいた。
−−なんだ、男じゃなかったんですか…。
-6-
悠理の謎?もとけ、食事も終了し、一度女性部屋、男性部屋の各部屋に戻ることになった。二次会は男性部屋で行うことが決まり、準備出来次第集まることになった。
可憐と野梨子はスウェットに着替え、男性部屋へ向かう。美童も部屋着に着替えていた。「あれ?2人は?」可憐が聞く。
「お風呂に行ったよ。」
「悠理も行ったのよ。あの子、結構温泉好きよね」と可憐が笑った。
「皆いませんし、3人で飲んじゃいましょうか。」と野梨子の一言で宴会がスタートした。10分ほどして、ホテルの浴衣姿で男性二人が戻ってきた。
「おかえり〜、飲み始めたよ。乾杯しよ〜」と可憐。
お風呂上がりのビールを乾杯する。
悠理抜きで宴会は進む。一次会の酒とかもあってかなり皆よっぱらってきた。
30分ほどしても野梨子は悠理が戻ってきていないことに気付き、部屋をちょっと確認しようと思った。それで、こっそり部屋を出たつもりだったが、清四郎が追い掛けてきた。
「野梨子。ちょっと話がしたいんです。」
そういって、部屋のない、ただの通路の前に連れていった。
「野梨子、あれからずっと避けてますよね。」
清四郎は真剣な表情で野梨子を見つめた。
野梨子は清四郎を見ずに「避けてなんかいませんわ。」といい視線を下に落とした。
「あのとき僕は、真剣だった。」
野梨子の肩を清四郎は掴んだ。
「そんなこと!」
一瞬清四郎を見つめる。
「そんなこと言われても、私は清四郎には男を感じられないんですのよ。この先何年経っても絶対恋愛対象にはならないですわ!」
強い口調で野梨子がいい、清四郎をみた。愛情というものは感じられない目だった。
−−野梨子…。
肩にかけていた手をおろし、がっくりと肩を落として、視線を下に落とした。
と、その瞬間。カタンと音がして振り返ると悠理がたっていた。旅館の浴衣を着て、髪をアップにして、お風呂グッズを持って。
「ごめん…。聞くつもりはなかったんだけど…。」
そういって2人のそばを通り過ぎ、女性部屋に入っていった。
悠理の白いうなじが、清四郎には印象的だった…。
部屋に入ると、悠理はTシャツとスウェットに着替え髪を下ろした。
−−清四郎、随分、がっかりしていた…。いまだに野梨子への思いを忘れられないなんて…。でも、清四郎じゃ、野梨子の彼氏になれないよ。おまえ達も、近すぎる。
「悠理〜、まだ?」
可憐から声をかけられた。
「いま、行く。」
何事もなかったように男性部屋にいった。
野梨子と清四郎は戻っていた。
野梨子は魅録の隣で話をし、美童と可憐と清四郎が話しをしていた。
悠理は魅録と野梨子のそばに座り、ビールをあけた。
野梨子と清四郎は不自然なほど、視線を合わせなかった。
悠理はそんな清四郎を見て、いまだにふっきれていない野梨子への思いに対して、怒りを感じていた。
−−清四郎は、彼女がいるのに、…。彼女がかわいそうだ…。
「ところで、清四郎」
悠理は清四郎に声をかけた。
「先日の彼女は元気?」
そう。わざと。
−−さっきのを見てて、わざといってますね、悠理…。
「はい。元気ですよ。僕より4つ上なんですけど、全然、幼くて。」
目は笑っていっているが、全然、真剣じゃなさそうな感じを悠理は受けた。
−−さっきの見ちゃったからかもしれないけど。
可憐は「清四郎の恋愛話、はじめてね〜」といいつつ、面白がって、清四郎に突っ込んで聞いていた。
清四郎は突っ込まれて、困惑しっぱなしだった。
悠理は、清四郎の話だけ振って、魅録たちとの会話に入った。
野梨子は、悠理の話を聞いて、一瞬、清四郎を軽蔑した目で見ていたが、それはほんの一瞬だけで、あとは穏やかな表情で話をしていた。
2日目。
そばと塔のへつりを見に出かけた。
何事もなく過ぎる。
夜の宴会も当り障り無く、過ごした。
ちょっと遠出したため、少し早く就寝。
-7-
3日目。
ラーメンツアーグループと湖で遊ぶグループに分かれることになった。
湖で遊ぶグループは魅録、美童、野梨子、可憐。
ラーメンツアーは悠理、清四郎。
「…っていうか、なんで4対2なんだよ。」
苦虫を踏み潰したような顔で悠理がいう。
「だって、あんた、ラーメン食べたいんでしょ。清四郎と2人で行ってきなさいよ。」
あっさり、可憐が突き放す。
悠理は清四郎の顔を見上げる。
「仕方ないでしょ。悠理はぼくと出かけるのは嫌かもしれませんが。」
「そんなことは、ないよ。」
−−ほんとはちょっといやかも。
一昨日の件がある。
「じゃあ、行きますか。」
2人は美童が借りたレンタカーに乗りこんだ。
レンタカーの保険の関係で運転は悠理がした。
左側に清四郎が座る。
二人とも、あまり話しをしない。
清四郎は、窓の外をずっと見てる。
−−きっと、野梨子のことを考えているんだろうな。わたしと一緒にラーメンを食べにいくのも、きっと、野梨子と一緒にいるのが、嫌だったから…。
そう考えると、少し落ち込む。
そして、別に何をされたという訳でもないのだが、そばにいるのが嫌だった。
嫌いとか、そういうんじゃないのだが。
なんとなく、この雰囲気に耐えられず…。
でも、沈黙も嫌で、声をかける。
「清四郎さぁ…。どこのラーメンやさんに最初に行く?」
「そうですねー。ちょっと携帯で調べてみましょうか。」
携帯のwebサイトで検索する。
「じゃあ、まこと食堂にしましょう。」
「OK。ちょっと、車止めるから、待って。」
ナビを設定するのに、悠理は車を脇によせて止めた。
「電話番号で設定できるよ。このナビ。電話番号、書いてある?」
「電話番号ですか。ちょっと待ってくださいね。」
そういって、検索しはじめた電話を悠理も一緒に覗きこんだ。
シトラス系の香水のにおいが、清四郎の鼻をつく。
−−いつのまに、こんなものまで…。
いままでは、石鹸の香りしかしなかったのに、香水の香りがする。
清四郎は驚いた。
「で、電話番号。早く教えてよ。」
「あ、すいません。024XXXX」
悠理が入力する。少しうつむいて入力していたので、少し長くなった髪が、顔にかかる。
それを掻きあげる。
そんな様子をぼうっとしながら、見つめていた。
−−髪、ストパかけたんだろうか…。やわらかそうだな…。
「なんだ、清四郎。気持ち悪いな〜、昨日から。なんかわたしのこと、見てない?」
「そんなこと、ないですよ。見ていないといえば、嘘になります…。さっきから、髪の毛が揺れるので、食べたりしないんだろうか?と気になっただけです。」
「ふぅん。髪の毛なんて食べやしないよ。今から、ラーメン食べにいくんだし…。ってさ、気持ち悪いこと、思い出させるなよ。あのミイラ事件、思い出したじゃないか!」
清四郎の腕をたたく。
「ラーメンも食べたくなくなってきた…。」
相当、落ち込んだ顔をしている。
−−失敗した…。せっかく、少し雰囲気がよくなったのに…。
「ごめん。じゃあ、とりあえず、会津にでもいきますか。」
引きつった顔で、清四郎は言う。
「う〜ん。…でもラーメン食べる。名物だし…」
やっぱり、ラーメン好きな悠理としてはラーメンが食べたかった。
清四郎は思わず笑ってしまった。
結局、3軒のラーメンやさんにいった。1時間くらい並んだ店もあった。
「食べ過ぎ〜。久々に食べた〜。」
3軒目の店から歩きながら、悠理は言った。
悠理は、最近、控えめに食べていたのだが、麺に絡み付くスープがおいしくて久々にたくさん食べた。
今日もジーンズにTシャツというラフな服装をしていたのだが、ジーンズが少しきつくなり、おなかをさすりながら歩いていた。
清四郎はそんな悠理の食欲によく付き合ったと我ながら思った。
そして、思わず悠理をみて、笑う。
「笑うなよ。」
朝出るときまで警戒していた悠理とは異なり、昔の笑顔を見せていた。
−−かわいいなぁ…。
知らず知らずのうちに清四郎は思い、微笑んでいた。
そんな清四郎を見て、悠理は胸がドキッとした。
−−?
-8-
駐車場についた。まだ午後2時だった。
「湖付近でも、周りながら、帰りましょうか。」
「OK」
車を発車させて、猪苗代湖へ向かう。
「みんなは、どこの湖に行ったんだろう?」
「どこでしょうね。たくさんあるから、周ってくる、としか聞きませんでしたね。そういえば。」
「行けば、会うかもしれないな。」
「そうですね。」
なんとなく、皆に会いたくないなぁ…と悠理は思っていた。
こうして2人で遊ぶのも悪くない、そんなことを考えていた。
悠理は車を降りると湖方面へちょっと小走り気味に歩き出す。
「清四郎、早く!」
少し向こうで悠理が待つ。
風で長くなった髪の毛が揺れる。
やわらかそうな猫っ毛に、ちょっと見とれてしまった。
悠理が近寄ってきて、急に清四郎の手をとった。
清四郎はドキドキした。
そのまま、手を引かれて、猪苗代湖に着いたが、皆はいなかった。
悠理は清四郎の手を引いたまま水辺へ向かう。
「靴に砂が入っちゃうね」
そう言って、笑顔を向けた。
また、清四郎はドキッとした。
慌てて、手を放す。
−−なんか、ぼくがまずいかも…。この状況。
顔が知らず知らずのうちに赤くなる。悠理は気づいていない。
手を放された悠理は、改めて、手をつないでしまった状況に気づいた。
ほとんど無意識に、当たり前のようにつないでいた。
−−はぁ〜…。失敗した。
ちょっと落ち込む。
−−そうだよね。彼女いるし、野梨子のこと好きだし。わたしなんて入る余地なし。…って、何考えてるんだ。わたし。
砂の乾いているところに、悠理は座った。隣に少し、間をあけて、清四郎が座る。
「海みたいに、波が引いたり寄せたりするんだね。」
「そうですね…。」
「…。でさ、野梨子のこと、どうするの?っていうか、もう、駄目なんだろうけどさ。あと、好きな人がいるのに、彼女とつきあってて、いいのかよ…。かわいそうだよ。」
下を向きつつも一気にまくし立てた。
「随分一気に、唐突に本題に入ってきますね。」
困惑した表情で言う。
「野梨子のことは、諦めます。野梨子に恋愛感情をもてないって、2回も言われましたし。」
寂しげに笑う。
悠理も少し、寂しくなった。
「まぁ、でも、今日は楽しくて、全然、野梨子のことなんて考えてなかった。結局、その程度だったのかもしれません。子供が大事なおもちゃ、といったら、野梨子に失礼なのかもしれませんが、それをとられるのが嫌だっただけなのかも…。恋愛というほど、恋愛感情は持っていなかったんだと、思います。昨日は少し落ち込みましたけどね」
苦笑しながらいう。
−−…。
「彼女は?」
「彼女は、つきあってます。ぼくのことを好きなんだそうです。ぼくには好きな人がいるといったんですけど、その人とうまくいくまで、私と付き合ってほしいといわれて。野梨子にフラれて、落ち込んでいた時期だったんですけど…。そういえば、もう、半年以上になりますね」
「酷い男だな…。」
悠理はうつむいたまま、ぼそっといった。
「酷いですか…。」
「うん。優しくするのは、残酷だよ。彼女は期待しているよ。」
顔を上げる。
「清四郎が、自分のほうを見てくれるのを…。」
まっすぐ、瞳は清四郎を捉えていた。
時間が、一瞬、止まったような気がした。
清四郎が、息を飲む。
そのまっすぐな瞳が息苦しく感じた。
また悠理はうつむきながら、話はじめた。
「そして、そうやって、女に逃げるのは、おまえらしくないな…。」
ただ馬鹿だ、猿だ、珍獣だと思っていた悠理にそう言われて、心にグサッと言葉がつきささった。
−−そう、ぼくらしない…。
でもそれ以上に驚いて言葉がでなかった。
−−悠理が成長している…。
衝撃だった。
容姿も変わったのも結構驚いたが、内面も変わっていたことに、ほんとに衝撃を受けた。
−−ぼくも、変わらないと。
そう思った。
暫く、ぼーっと、湖を眺めていた。
「さてと。そろそろ、ここを出るか。」
悠理が立ち上がった。
ポンポンと砂を払い落とし、そのあと、清四郎に手を差し伸べた。
「わたしたちがいるよ。清四郎。」
そういって、にっこり笑った顔が、美しかった。
悠理じゃない、悠理。
−−つい先日までの、高校の頃を思わせる、悠理ではないんですね…。
「そうですね。」
清四郎は差し伸べられた手を取って、立ち上がった。
本当は、そこで引き寄せて、抱きしめたい衝動に駆られていた…。
なぜ、そうしたかったのか、わからなかったが…。