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みかんと惑星

有/閑/二/次/小/説/のブログです。清×悠メインです。 当サイトは、原作者様・出版社等の各版権元とは一切関係ございません。 最初に注意書きをお読みいただければと思います。

薄明光線 ③

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薄明光線 ③

        -5-


悠理は、昇降口のほうで博人と待ち合わせた。ほとんど下校しており、昇降口にはポツリポツリとしか人がいなかった。
「じゃあ、帰りましょうか。」
「うん。」
外に出るとポツリポツリと雨が降り始めていた。
「やっぱり、ここまで迎え、きてもらおうか。あたし傘ないし。」
そう悠理がいうと、博人は自分の傘を広げ、悠理を引き入れた。
「こうして歩けばいいでしょ。」とにっこり笑いかける。
「まあ。…そだな」
悠理は照れくさそうに頭をかいた。
そんな悠理をみて、博人は微笑んだ。
ふれそうでふれない距離に、少し博人はもどかしさを感じる。
「今日は駅でお別れなんだよね?」
駅までの10分ほどの距離を一緒に帰る。もう少し長く一緒に歩きたい博人は悠理に聞いた。
「まあ…。もう迎えをお願いしたしなぁ。」
「残念だな。僕はこうして、もう少し歩きたいな…」
博人はさびしそうな顔をして微笑んだ。
「な…っ!!」
何馬鹿なことをいうんだよ!!恥ずかしいじゃないか、と悠理は言いたかったが「な、」で止まった。
一応、今はデートといえば、デートだし。
あんまり相手のことを考えないで発言するものではないか、と、さびしそうな博人の顔をみて理性が働いた。
傘からはみ出したスカートの裾が、雨に濡れる。
ちょっと濡れて気持ち悪いなと悠理は思う。駅が近づいてきた。
雨も少し強めに降ってきた。狭い路地で、向かい側から車が近づいてくる。博人は悠理を壁際に引き寄せて、車を避けた。
博人は傘をななめにして水はねで悠理が濡れないようにする。
悠理の背中に手を回して。
車が通りすぎたのに、博人は悠理の背中に手を回したままだった。
「博人?」
不思議に思って、悠理が聞く。
その瞬間、悠理は何が起きたのか理解できなかった。
博人の顔が悠理に近づいてきて悠理の唇に博人のやわらかな唇が触れた。雨のせいか、冷たい。
--えっ?
ふと、悠理の脳裏に清四郎の顔が浮かんだ。
--せいしろう。
心の中でつぶやく。心に鈍い痛みが走る。
と、その時、傘越しに「お兄ちゃん!」という声がした。
その声で悠理は我に返り、博人を突き飛ばした。博人は壁にあたる。
「お兄ちゃん。大丈夫?」
ふわふわの長い髪をした美少女が博人に駆け寄った。中等部に通ってる博人の妹の絵里香だった。絵里香は悠理を睨みつけた。
「お兄ちゃんに何するのよ!!野蛮人!!!」
悠理はふっと悲しげに笑った。
「ごめん、博人。あたしはお前とつきあえない。」口が勝手に思いを告げる。
元来た道を走って引き返していた。
「悠理さん!!」
博人は大声で叫ぶも、絵里香にしがみつかれて、動けなかった。


 
        -6-


悠理が先に帰ったあと、清四郎以外の有閑倶楽部のメンバーは、魅録の家にいくために帰った。
清四郎は生徒会の雑用が終わらなかった。雑用をしながら悠理のことを考えてしまう自分がいた。こんなんじゃ終わらないと思いつつも、気を抜くとぼーっと考えてしまう。
今日は、一度も、視線を合わせなかった。
はにかんだ笑顔を博人に向けた。
デートの話を顔を赤らめながら話した。
ザアァ…。
雨音がいっそう強くなる。
遠くのほうでは雷がなっていた。
--厚い雲は、僕の心、みたいですね。
自分でもよくわからない悲しみと喪失感が襲っている。
何を間違ったんだろう?
何がいけなかったんだろう?
博人はいい人そうだ。悠理のことは祝福してあげるべきでは?
と思うが、そう思えば思うほど、喪失感が増幅する。
作業をする手が止まる。
--今日は全然進まないし、早く帰りますか。
清四郎は苦笑した。
悶々としてる自分がいる。
自分と悠理の関係といえば釈迦と孫悟空。それ以外のなんでもない。なのに、悠理のことが気になる。悠理には、自分にだけ笑顔を向けてほしいと思う。
作業していたものをロッカーにしまい、荷物をまとめ、電気等を消し、生徒会室のカギをかける。
昇降口ほうをふとみると、ズブ濡れの女が廊下を歩いてきた。
「悠理!」
駆け寄るとよわよわしく笑った。
「まだ電気がついてたから、いると思って。…もう、清四郎は帰るの?」
「ええ。でも、風邪ひきますから、中に入って…、濡れた髪をふきましょう。」
鍵をあけて中に入れ、悠理がおきっぱなしにしていた私服に着替えさせた。着替えてる間にお湯を沸かし、紅茶をいれる。
「これでも飲めば少しは温まるでしょう。」とカップを手渡した。
「ありがと。」ずるずると紅茶をすする。
「なんか、ほっとする。」
清四郎と向かいあって椅子に腰掛けていたのだが、悠理がカップを持って隣に移動してきた。
そして清四郎の肩に頭をもたれかけさせた。よく乾いてないので、シャツに髪の毛の水滴の染みが広がる。
「少しだけ、こうしてたい。」
一言いうと、黙り込んだ。悠理の眼から涙が溢れ出す。
鳴咽があがる。
「何かあったんですか?」
答えない。
「悠理」とカップをテーブルにおき、自分の方を向かせた。
鳴咽はあがっていたが声を出さずに泣いていた。
そんな泣き方をしている悠理を見るのは初めてだった。
「どうしたんです?」
「あたし…、博人と付き合えない…」
「もう振られたんですか?!」
「違う…」
悠理は頭をぶんぶん振った。水しぶきが清四郎に飛び跳ねる。
「じゃあ、どういうことなんです?」
顔にかかった水しぶきを手で拭きながら聞いた。
「あたし、博人にキスされた…」
清四郎に動揺が走る。鋭いナイフで胸を刺されたような気がした。
「…いま、なんて?」
清四郎の問いには答えず、悠理は清四郎の目をじっと見つめる。
「でも、あたし、だめだった…」
そういって、悠理は清四郎の腕をぎゅっとつかむ。
「あたし…、清四郎じゃないとだめなんだ」
涙があふれてこぼれ落ちる。
「清四郎に…そばにいてほしい」
「悠理…」
清四郎は考えるよりも先に悠理をぎゅっと抱き寄せた。
雨にぬれた髪が清四郎の顔にあたる。
悠理のシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
腕の中に悠理がいて、安心する。
が、心臓は激しく高鳴っていた。
心臓の音が悠理に聞こえそうだと清四郎は思った。
外は少し明るくなり、雲の切れ間から一筋の光が差し込んでいた。

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2005
基本的に、雨の設定が好きみたいです。わたし。
2017.4.12 
もともとの終わり方を変えました。
というか、だいぶ書き換えているかも。

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