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みかんと惑星

有/閑/二/次/小/説/のブログです。清×悠メインです。 当サイトは、原作者様・出版社等の各版権元とは一切関係ございません。 最初に注意書きをお読みいただければと思います。

変わらない、場所 ⑪

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変わらない、場所 ⑪

タクシーに乗り、家に着くと青佳は居間のソファの上で寝ており、ベビーシッターは誰かと電話していた。
あたしの顔をみるなりハッとしたような顔をした。
「あ、奥様。」
ベビーシッターは、その後、小声になりそそくさと電話を切った。
「早かったんですね、おかえり。」
あたしと同じくらいの年齢のベビーシッターはぎこちなく微笑んだ。
「たったいま、旦那さんから電話があったんですよー。旦那さんの弟さんが駅まで来てるらしくって。誰もいない家にあげる訳にいかないから、青佳ちゃんを駅まで連れてきて欲しいって言われたんですけど、…あたしが連れていきます?。」
面倒な用事をいいつけられて困惑しているのがありありだった。
「今、義弟(おとうと)がもう来てるの?」
「ちょっとわかんないです。”弟は他に駅で何か用事があるみたいだから連れてくるのは40分後でいい”って、旦那さんから言われたんですけどね。あたしが”奥さんは外出してますよー”って言ったら、ちょっと間があいてから、そんな感じで言われたんです。」
ベビーシッターは苦笑する。「あたしに電話しないで奥さんの携帯にすればいいのにね。」歯茎を剥き出しにした笑顔を浮かべた。
あたしも仕方なく、微笑んだ。苦笑。
40分か…。
ちょうど義弟の住むマンションからここまで大きな渋滞がなければ車で20分。駅までなら25分。
支度して出てくるにはちょうどよい時間だった。
たぶん、あたしがいない間に義弟を使って青佳を連れ出そうって、突然思いついたんだ。
このままじゃ、またあたしが不在のときに連れ去られてしまう。
「悪いけど、義弟にはあたしから連絡するから、帰ってくれないかな。」
「えっ…。でも、契約時間だとあと2時間は…。」
「お金は、お渡しするわ。」
あたしはベビーシッターに少し多めにお金を渡した。
「奥さんがそれでいいなら、あたし、帰ります。」
ベビーシッターは足取り軽やかに帰って行った。
その後、あたしは義弟に電話をかけ、青佳を連れていかない旨を伝えた。
義弟は『うん、別に僕も兄さんから”妻が多忙だから暫く預かってくれないか。”と言われただけだから。悠理さんが忙しくないなら、別に問題ないし。』と言って電話を切った。
やはりいないときに連れて行ってしまおうと考えていたようだ。
隙をみせてはいけない。
その前にこの関係をどうにかしないと…。
あたしは青佳を連れて役所にいくことにした。離婚届を貰いに。

---家を、出ようか。
あたしは本気で考えていた。もう、うんざりだった。青佳が連れ去られてしまうかもしれないという恐怖を感じながら生活するのは。
離婚届を貰った帰り道、不動産やのマンションの間取りが目に入った。
中古物件ばかりが並んでいた。買えないことはない金額。でも買った後、どうする?。どうやって生活をする?
親に連絡して生活費を貰ったら、きっと旦那にばれる。
そうしたら、連れ戻される。
旦那に暴力をふるわれたなんていったら、旦那がDNA鑑定書を見せるに違いない。
…やりかねない。
勘当されてもいいけれど、悪い噂が立ったりしたら、大変だし…。
そんなことを考えていると、「あの、すみません。」と躊躇いがちに後ろから声を掛けられた。
「悠理さん、じゃないですか。」
振り返るとそこには清四郎と一緒にインドに行ったはずの北山美弥がいた。
あたしは驚いた。
清四郎と行ったはずじゃ…。
「そんなに驚いた顔なさらないで。」
そう言って美弥は笑った。
「もしよろしければ、そこのカフェでお茶しませんか。」
人の良さそうな美弥の微笑みに、あたしは頷いてついていくことにした。

カフェでは何故不動産にいたかなどということを聞かれ、気付いたときには青佳と清四郎の関係を除いて話していた。
「そう、旦那さんとね。」
美弥は複雑な表情をした。
「わたしは清四郎と別れたのよ。もう一年以上経つかしら」
あたしはまた驚いた。
「インドに一緒にいったとばかり。」
そういうと美弥は頭を振った。
「わたしは清四郎がインドに行く前に別れたわ。インドには一人で行ったのよ。」
「どうして?」
「…何故かしら。」
美弥は困惑したような顔をして微笑んだだけだった。
「わたしは、悠理さんと清四郎がうまくいってるとばかり、…思っていた。」
「でもあたしは旦那とうまくいかなくて、家出したいとまで思ってる。」
「そうね。」
美弥はコーヒーを口にした。するとにこやかに微笑みながら言った。「悠理さん。わたし、あなたに協力するわ。」
「えっ!?」
「あなたが家を出るのに、協力するわ。事務所に空いている部屋があるから、暫くそこを使えばいいわ。ほとぼりが冷めるまで。それから少しうちの事務所手伝わない?勿論、少しだけど給料は払うわ。去年独立してやっともう少し人を雇ってもいいかなって思えるようになったの。」
にこにこして言う美弥。どこまで信用していいのかわからないけれど、今の状況から逃げ出すためには好都合だった。ただ、不安なことが一つ。
「嬉しいけど。…あたし働いた事ないんだ。」
「大丈夫よ、慣れれば。」
美弥はそんなあたしの肩をポンと叩き、楽しそうに言った。

早速、今日の夜に引っ越すことになった。お手伝いさんが夜6時に帰る。そのあと、出ることにした。
彼の書斎の机の上に離婚届を置いた。そして携帯もメモリを消して置いた。
”離婚してください。探さないでください。 悠理”
それだけ離婚届の上に置いた。
机の上に一緒に写っている写真が飾ってあるのが目に入った。
新婚旅行でギリシャに行ったときの写真だった。
パルテノン宮殿の近くで撮った写真だった。知らない観光客に撮ってくださいと頼んで。
楽しそうな笑顔で写る二人。
この日、とても疲れたな…。
気づかれして、そのまま夜に寝込んでしまったことを思い出す。
あたしはそのまま、写真を伏せた。
自分の部屋に戻り、身の回りの貴重品と一週間分の衣類を持った。それから青佳の簡易食品なども持った。結構な荷物になった。車で迎えにきた美弥は苦笑した。
「まるで引越しのようだわ。…まあ、基本的に夜逃げだけどね」
「そう。夜逃げだね」
あたしも苦笑して続ける。
「これから、冬になるし、青佳が寒いと大変だから。」
「そうね。」
美弥は青佳の顔をみて、微笑んだ。

美弥の借りている事務所はマンションをリフォームしたものだった。上の階に美弥は住んでいる。事務所は30畳のスペースに仕事関係の本棚と机が4つ、応接用の間仕切りがあって、ソファとテーブルがおいてある。事務所スペースの隣にキッチンとトイレがあり、その奥に8畳ほどの部屋があった。今までみたことないくらい狭いと悠理は思った。
「洗濯機とお風呂はうちのを使えばいいわ。青佳ちゃん、まだ小さいし私のところに住むより仕事をしながらみれたほうがいいと思うのよ。」
あたしは頷いた。
ほとぼりが冷めるまで、ここにいればいい。
旦那も諦めたら、実家に帰ればいいんだ。あるいは、そのまま海外へ…。

あたしは翌日から早速、基本のビジネスマナーを教えられて、電話を受けた。最初、なれなくてどもってばかりいた。
翌日からは客にお茶を出したり、PCで文章を入力したりという仕事をさせられた。最初は8時間座っているのが苦痛だったが一週間もすると慣れた。体を動かすことが好きなあたしには退屈な仕事だったが、こちらも割り切ってしまえば慣れた。
事務所は美弥と中原という40歳くらいの主任技師、梅田というあたしより年下の設計補助、そしてあたしの4人だった。
梅田は雑用をあたしがやるようになったので喜んでいた。掃除は週に2回清掃業者の人が来たが、日々の簡単な清掃はあたしが行った。夕飯は美弥が食べさせてくれることが多かったので、かなり助かっていた。
あまり不自由することなく、日々を過ごしていた。青佳は皆にかわいがられ、すっかりうちとけていた。青佳の一番よいお友達は梅田らしいが…。
ただ時々、思うことがあった。
清四郎と3人でいられたら、どんな生活をしてももっと幸福だったのに、と。

---

やっと悠理編はおしまい。次の回は清四郎。

(2006.02.22)りかん

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