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みかんと惑星

有/閑/二/次/小/説/のブログです。清×悠メインです。 当サイトは、原作者様・出版社等の各版権元とは一切関係ございません。 最初に注意書きをお読みいただければと思います。

変わらない、場所 ⑩

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変わらない、場所 ⑩

翌日、あたしは青佳を迎えにいき、旦那のいない日々を2人で平和に過ごした。

旦那が帰ってくる日、また寝入りを蹴られるんじゃないかと思い、帰ってくるまで待とうかと思ったが、0時を過ぎたので寝ることにした。お風呂に入り、寝室のベッドに潜り込む。
すると、玄関が開いたような音がした。旦那が帰ってきたようだった。
ごそごそと自室に入る音がする。
ちょっと自室に真っ直ぐに入ってくれてほっとした。今日は何もなさそうだ…。
だが、自室で寝るとばかり思っていた旦那があたしの寝室のドアを開けた。夫婦なので入ってきても不思議はないのだが、嫌な予感がした。寝たふりをしているとあたしの隣に入ってきた。反対側には青佳が寝ている。すやすやと青佳は寝息を立てていた。旦那は特に何をするでもなく、暫くそのままでいた。あたしが何もしてこないことに安堵したその瞬間、パジャマを捲くり、中に手を伸ばしてきた。
やだ!
そう思った瞬間に旦那を突き飛ばし、青佳を抱えて部屋を飛び出していた。
振り返ると突き飛ばされた旦那はおそらく初めて見るあたしの怪力に呆然としていた。

あたしはパジャマ姿で外へ飛び出した。とりあえず、実家に戻ろう。そう思った。青佳が泣いているため、通り掛かる人が何ごとかと余計に振り返る。そんなのは構っていられなかった。
「悠理!」
呼ばれて振り返るとタクシーに乗った野梨子に呼び止められた。
「どうなさいましたの?。私、家に帰るところですから、とりあえずお乗りなさいな。」
あたしは黙って頷くと野梨子の言うとおりにタクシーに乗り込んだ。

野梨子の住むマンションは野梨子の実家から徒歩15分ほどの距離にある。
野梨子は別に実家にいてもよかったのだが、何かと生活が不規則なため、一人暮らしをしていた。
あたしを居間に通した。
「今日はうちに泊まっていくといいですわ。」
あたしは頷いた。
青佳を自分のベッドに寝せると野梨子はあたしに紅茶を出した。甘い紅茶は今のあたしにとても優しく感じられた。
「ねえ、悠理。」
「何?」
「最近、ご主人とうまくいっていませんの?」
あたしは黙った。たぶん旦那は野梨子にまで連絡したのだろう。
「とても心配してましたわ。」
あたしの目を覗き込む。
「あぁ、そういえば。」
野梨子が何か思い出したようだった。
「悠理のご主人が先日うちにいらした時に神妙な顔をして帰りましたのよ。」
先日うちにいらした?
あたしはまずここでひっかかった。なんで野梨子の家に?。野梨子の家にいったなんて一言も聞いてなかった。
「うちに、いらしたってどういうこと?」
野梨子は意外そうな顔をした。
「あら、悠理。あなたのご主人はお茶を習ってらっしゃるのよ。あなたたちが結婚してまもなくですから、随分経ちますわ。」
旦那がお茶?しかも結婚してまもなくって…。
どうしてあたしに黙って習ってるのかそれも不思議だった。
「あたし、聞いてない。習ってるってこと。」
野梨子は笑った。
「まあ、隠し事の多い夫婦ですのね。夫婦で隠し事はいけないわ。悠理もね。」
悠理も、って。何か知ってるの?あたしたちのこと。
どきりとした。
野梨子はあたしの動揺を気にする風でもなく、続けた。
「今は楽しんでお茶をたててますけど、そもそもご主人が、お茶を習い始めた要因は悠理にあると思いますわ。」
「あたしに?」
「ええ、そうですわ。習いに来た当初、悠理のことばかり、私に聞いていましたもの。それで、あるとき聞いてみましたのよ。”悠理に直接聞いてみませんの?”と。そうしたら”悠理は自分のことを語りませんから。食べ物の話になると雄弁になるんですけどね”と言ってましたわ。」
確かに、何か聞かれても大して興味がなくて”うん。”とか”そう”とか適当にしかしか答えてなかった。”学生時代はどうだったの?”、”いまと大して変わらないよ。”、”初恋は?”、”そんなもんあったかな?忘れた。”等々、会話を思い出す。
「先日も悠理の家に遊びにいった話をしましたのよ。そしたら、たいそう驚いてらして。」
”誰か来たの?”と確かに聞かれた記憶がある。そのときは”うん、まあ”で会話を終わらせていた。言う必要もないと思っていたから。
「青佳ちゃんの血液型の話をしたら、なんだか神妙な顔をなさっていたわ。どうなさったの?と聞いたんですけど、ただ笑っていらして。間違いってこともあるかもしれないからって。」
「そうなんだ。」
そうか…。血液型は野梨子からわかってしまったんだ。
どうして旦那が青佳との親子関係に疑いを持ったのか理由がわかって、ちょっとすっきりした。
けれども、あたしのことを知るために、野梨子に近づいていたなんて…。
そう考えるだけで、ぞっとした。まるで、ストーカーだな…。
野梨子と彼は繋がっている。
下手に野梨子に何かしゃべれば、きっと彼にあたしの行動が筒抜けになる。
あたしの行動は周りの人間から旦那に筒抜けになる…。
こうして、ここにきたのだって、もう既に筒抜けになっているに違いない。
厄介なことに、両親も野梨子も旦那を信頼していた。
二人とも、いい旦那さんという。
可憐に話しても、きっと同じ答えが返ってくるだろう。
とりあえず、明日は一度家に帰って対策をねろう…。
あたしは紅茶を飲み終えると野梨子に布団を敷いてもらって床についた。

翌日、朝起きてからあたしは今後どうしようかと考え込んでいた。
その様子を見ていた野梨子は苦笑した。
「どうしましたの?」
「家に帰りたくないなと思って。」
「また、そんなことを。」野梨子は呆れたような顔をした。
「とりあえず、家に帰って仲直りしなさいな。昨日、連絡はしておきましたから。そのときに言われましたのよ。”愛しているから戻ってきてほしいと伝えて欲しい”って。本当に悠理に惚れていますのね。」
野梨子は微笑みながら暢気な様子でいった。
あたしは笑って「そうだな、家に帰るよ。」と答えたが、仲直りするために家に帰ろうと思ったわけではなかった。これからどうするか帰って考えようと思ったからだった。
「その服装では帰れませんわね。あとで服を買ってきてさしあげますわ。」
野梨子は微笑んだ。

野梨子に買ってもらった服を着て家に帰った。
家に帰るとお手伝いさんだけがいた。
「奥様、おかえりなさい。」
「あ、うん。旦那は?」
「仕事に行かれましたよ。今回は5日ほど戻られないそうです。」
「あ、そう。」
あたしは青佳をお手伝いさんに預けて自室に入った。
おきっぱなしの携帯にメールが入っている。旦那からのメールだった。そこには、”青佳をどこかに預けて二人で一からやりなおそう。愛している。戻ってきてほしい、悠理。”と書いてあった。不快感を覚えた。青佳を手放すことなんて考えられなかった。清四郎から贈られたたった一つ宝物なのに。それを手放してなんてありえなかった。あたしは旦那と別れたいと強く思った。
だが、彼の手が届かないところに逃げるにはどうすればいいんだろう…。
実家も野梨子も可憐も彼と懇意だ。
悪いのはあたしだけど、このままでは彼からは逃れられない。
---とりあえず、お金…。
結婚前の貯金通帳をひっぱり出した。使うことがなかったからそのままだ。
5000万円あった。もう少し貯金しておけばよかったと後悔した。
---海外へ逃げるか?
---でも青佳のパスポートもないし…。
申請して待つのさえ、時間が惜しかった。この家にはいたくなかった。
こんなとき、清四郎がいてくれたら。
もうすぐ清四郎が旅立って一年になる。
そして青佳が生まれて一年。秋は深まっていく。

翌朝、あたしは電話の音で目が覚めた。
「はい…。」
『僕だ。』
旦那だった。
『いま、宮崎にいるんだ。4日後には帰るよ。』
旦那の声は不気味なほど優しかった。
「うん…。」
『僕のメール読んでくれたかい?』
「う…ん。」
『返事もないから読んでくれてないのかと思ったよ。愛してるよ、悠理。』
「…。」
『一からやり直そう。青佳はどこかに預けて、二人きりで。そして僕たちの子を育てよう。青佳を里子にだすなら早いほうがいいな。早速、帰ったら相談に行こう。』
嫌。
「嫌だ。あたしは青佳を手放したくない。あたしは…。」
あなたと別れたい。
そう言いかけて黙った。
『そんなの君のわがままだ。僕は僕以外の父を持つ子は育てられない。君が手放すべきだ!』
最後は怒鳴り声だった。あたしは黙って電話を切った。
この人とはもう一緒にはいられない。

あたしは電話を切るといつも頼んでいるベビーシッターを呼んだ。
魅録に相談するために、一時的に預けた。
あたしは魅録の職場に向かった。
「松竹梅魅録さんの高校の同級生の佐藤悠理と申します。本日松竹梅さんとはお約束をしていないのですが、お会い出来ないでしょうか。」
努めて明るく受付に話し掛けた。
「佐藤悠理さまですね。少々おまちくださいませ。」
「はい。」
笑顔を絶やさず控目な感じで返事をした。
黙ってにこにこしてれば美人でいいお嬢さんに見えるのに、と大学生の頃に美童から言われ、練習した。いつか、清四郎に大人になったあたしを見てもらいたかったから。でも清四郎と会うと地が出てしまうかまともに会話ができないかどちらかだった。
そんなことを待ちながら思い出していた。
「佐藤さま、松竹梅ですがただ今参りますので暫くお待ちくださいませ。」
「はい。」
5分ほど待つと魅録が現れた。
「やっぱり、悠理か。また偽名使って。」
呆れ顔で話し掛ける。
「だって、あたしの名前知ってるやつがいるかもしれないじゃん。」
あたしはいつも偽名を使って魅録を呼び出す。佐藤、鈴木、高橋、佐々木…。ありそうな苗字ばかりだ。
魅録は苦笑すると悠理の背中に手を当てて、ビルから出るように促した。
近くの喫茶店に入る。
「旦那から聞いたよ。」
入って座るなり煙草に火をつけて、フーッと息を吐き出した。さっきとは打って変わって険しい表情をする。
「お前、旦那と喧嘩して家出してんだろ。旦那がかなり心配して捜し回ってたぞ。あんまり心配させんなよ。」
魅録のところまで、彼は…。
「で、どうしたんだよ。今日は。またあそこの店でトンカツ食いたいとかは無しだぞ。」
あたしは出されたコーヒーに口をつけ、魅録を見た。
「お前を親友だと思ってるからいうけど、旦那にも誰にも言わないで欲しいんだ。」
あたしは魅録に切り出した。清四郎のことなどは話さなかったが、自分の気持ちが完全に離れてしまったことなどを簡潔に話した。
「あたし、旦那とはもう一緒にいることは出来ない。離婚したいんだ。」
魅録は暫く言葉を失っていた。
「何があったんだよ。」
漸く口を開いたのに、あたしは魅録を見つめて、「…言えない。」というと黙り込んだ。
言えるはずがなかった。青佳が清四郎の子で、それが原因で暴力を振るわれたなんて。
振るうのは悪いが振るわれても心情的に仕方ないことをしている。一年以上自分の子だと信じていた彼を裏切った訳だから。
「とりあえずあたしが悪いんだ。彼はもともと悪くないんだ。でも、駄目なんだ。…家を出たい。」
もともとあたしの中には愛はなかった。嫌いではなかった。むしろ好きなほうだった。一緒に暮らしていて情も移っていたが、青佳を手放してくれと言われた瞬間に、その情もどこかに行ってしまった。今では嫌悪感しかない。
魅録は暫く考え込んでいだ。
「旦那と話し合いはしないと駄目だと思うぜ。逃げても何も解決にはならないから。」
尤もな意見にあたしは曖昧に頷いた。
話し合いで解決できるなら円満に解決したいが、そんな訳にもいかないかもしれない。
あたしがいない間に青佳を…。
ハッとした。いつものベビーシッターに預けた青佳。あのベビーシッターは旦那と懇意だ。
危ないかもしれない。
「ごめん、魅録。呼び出しておいて悪いけど子供が心配だから帰るよ。」
あたしは立ち上がり、店を出た。
魅録が後ろから「心配ってどういうことだよ!」と声をかけたが、あたしは振り返りもせずに家に向かった。

---

逃げたいけど、旦那からどうやって逃げればいいのかわからない悠理。皆、旦那はいい人といっていて、悠理には逃げ場がないです。他の人からすれば、いい人なのに何故?という話です。
 百合子は説得次第でわからないけどねぇ。
 (2006.02.19)りかん

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