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みかんと惑星

有/閑/二/次/小/説/のブログです。清×悠メインです。 当サイトは、原作者様・出版社等の各版権元とは一切関係ございません。 最初に注意書きをお読みいただければと思います。

変わらない、場所 ⑥

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変わらない、場所 ⑥

僕は翌日、美弥に別れを告げに行った。話し合いという訳ではなく、一方的に別れを告げるつもりだった。
僕は旦那の子供を悠理が妊娠していたことを知り、宙に気持ちが浮いてしまったような気がした。
悠理は、きっと子供のために、旦那と生活していくだろう。
でも、僕はすっかり美弥から気持ちが離れてしまっていた。
無理だった。
悠理と一緒にいられないのであれば、僕は独りになりたかった。
僕が美弥の家にいくと、美弥は仕事から帰ってきたばかりでぐったりしていた。まだスーツを着ている。
「今朝も会ったばかりなのに、どうしたの?」
それでも美弥は笑顔で僕を迎えた。
いつも会社に10時頃出勤し、21時過ぎくらいに帰ってくる。
7歳上の美弥は仕事があった日の夜に会うと本当に顔が疲れている。
「中に入れば?。」
「ええ。」
僕は言われるがままに中に入った。
ベージュを基調としたシンプルな部屋で、生活に必要なものしかおいていないような部屋だった。
「今日のクライアントはね、とてもわがままで、4時間くらい話していたわ。それで、納得してもらえて。」
そう言いながら、コーヒーを淹れる。
僕はソファに腰掛け、彼女の動作を見ていた。
頭も小さく、首も細く、そしてスレンダーな体つきをしていた。
悠理より、若干、背が高い。
彼女の後姿が好きだった。
彼女の笑顔に癒された。
でも、彼女に対して、僕は恋をしていなかった。
ずっと、悠理のことが、好きだった…。
僕の前にコーヒーを出すと、美弥は僕の向かい側に座った。
「清四郎、別れ話にきたんでしょ。」
美弥は僕をまじめな顔で真っ直ぐに見た。
「今日こそは、本当に別れを言うつもりなんでしょ。顔に書いてあるわ。」
美弥はコーヒーを一口飲んだ。
「ドアを開けたら、凄く深刻そうな顔をしているんですもの。しかも、連絡なしに来るから、驚いたわ。」
美弥は努めて明るく言った。「わたしもね、もう1ヶ月もこんな話をしていたでしょ。疲れちゃったの。」
結んでいた髪をほどき、ゆるくウェーブのかかった長い髪を掻きあげた。
「いいよ、おわりにしよう。でも、今日は理由をきちんと話してくれるんでしょ。」
僕は頷いた。ちゃんと話そうと思った。
「美弥、僕は君の言っていたとおり、悠理のことが好きでした。ずっと。高校生のときから。少しだけ、彼女と付き合っていたことがあります。僕は彼女のことだけ見てあげられませんでした。他にも興味があったのと、皆からからかわれるのが嫌だったのと。彼女から別れを切り出され、僕はつまらないプライドから、彼女からの申し出を受けました。でも、ずっと僕は彼女のことが好きでした。彼女が結婚したのを機に諦めようと思いました。美弥のことを好きになろうと思っていました。でも、諦めきれてなかったんです。」
「あの日、あなたたちは…。」
美弥は息を呑んだ。
僕は俯いた。
あの日…。大雪さえ、降らなかったら。
みんなと一緒にいられたら。
僕は悠理のことは過去のこととして、扱っていただろう。
自分の気持ちに嘘をついてでも…。
美弥を見ると、美弥は悲しげな顔で僕を見ていた。やっと口にした言葉が、声にならない「酷い…。」という言葉だった。
僕はその言葉に対して答えずに、言葉を続けた。
「でも。」
無理に笑おうとしたが、唇の端が、うまくあがらなかった。
「悠理は、妊娠しているんです。」
「まさか、、、。あなたの子…?。」
今にも泣きそうな顔をしている。
「いや、たぶん、旦那の子だと思います。」
「旦那さんと、うまく行っているってこと?」
「わかりません。」
僕は首を横に振った。
「でも、彼女が、誰の子を身篭ろうとも、僕は彼女を好きなんです。今のまま、君とは付き合って、…いけない。」
美弥を見据える。
美弥はフーッとため息をつくと、寂しそうに微笑んだ。涙が、つーっと、頬を伝わる。
「最初から、言ってくれればよかったのに…。他の女が好きな男なんて、興味ないわ。」
声が震えていた。本当はとても辛いんだろう。
「ごめん…。」
「謝らないで。私は私のことを好きでいてくれる人じゃないと好きじゃないんだから…。だから、もう帰って…。」
美弥は零れる涙も拭わずに、僕に言った。
僕は「うん。」と頷き、そのまま、振り返らずに部屋を出た。
気丈に振舞ってくれた美弥のことを思うとつらかった。自分が悪いばかりに…。悠理のことを好きだったばかりに、傷つけてしまって…。
僕は部屋に戻ると、やや横向きにベッドに横たわった。涙が頬を伝わる。
色々なことがありすぎた。
悠理を好きだという想いを思い出してしまったからこそ、辛かった。


あたしはパリで、母親の用事につき合わされていた。
着たくも無いドレスを着せられ、お茶会に連れて行かれ、会話も出来ないのに、連れまわされた。
ほんとにげっそりとしていた帰国する1週間前にくるものが来ていないことに気付いた。
そして検査を受けに病院に行くと妊娠していることが判明した。同行した母親は大喜びしていた。妊娠祝賀パーティを開かなくちゃとはしゃいでいた。
あたしが、妊娠…。
頭の中が真っ白になった。
嘘…!?。
確かに清四郎とそういう風になる1週間前に旦那とはそういうことがあった。
でも…。旦那の子じゃない気が、する…。
喜ぶ母を横目に暗い気持ちになっていった。
清四郎に相談するのにしても、清四郎には彼女がいるから迷惑がかかる。
どうしよう…。

帰国して二週間ほどしたときに妊娠祝賀会が開かれた。
あたしはとても嫌だった。鬱々とした気分で、席についた。
勿論主催は両親で旦那、兄貴、可憐と野梨子、そして時宗と千秋だけ呼んでこじんまりとした集まりだった。旦那の両親や魅録は日程的に都合が悪くて来れなかった。清四郎と美童は旦那と接点がないため、始めから誘わなかった。旦那はあたしの隣で満足そうに微笑んでいた。可憐と野梨子もニコニコしている。
皆、あたしの子供は旦那の子だと思っている。嬉しそうに祝いの言葉を述べている。
あたしは恐ろしくなった。
これで、この人の子じゃなかったらどうしよう…。
「なんだか、顔色が冴えないですわね、悠理。」
野梨子があたしの顔を覗き込むように言う。
「うん。なんとなく、気分が優れなくて。」
はははと笑ってごまかした。
「まあ、そうですの?お部屋で休んだほうがよろしいのでは?ね、おばさま。」
心配そうな顔であたしを見ていた野梨子は、母を見た。
「ええ、そうね。これで流産でもしたら大変だから、休んでらっしゃい。」
「じゃあ、申し訳ないけど。」
あたしはそういうとそそくさと自室に戻った。
生むのが恐い…。
どうなって、しまうんだろう…。
旦那の子供であれば、事態はうまく収集される。
それはわかっていたけれど、あたしは心の奥底で、旦那の子ではなく清四郎の子を望んでいた。

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まだ続きます。

(2006.02.11-2)りかん
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