忍者ブログ

みかんと惑星

有/閑/二/次/小/説/のブログです。清×悠メインです。 当サイトは、原作者様・出版社等の各版権元とは一切関係ございません。 最初に注意書きをお読みいただければと思います。

変わらない、場所 ④

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

変わらない、場所 ④

比較的暖かいバスルームであたしたちは着替えた。時計は8時を指していた。お湯を沸かしてコーヒーを入れると2人で布団に包まりながらパンを食べ、コーヒーを飲んだ。
「行儀悪いな。」あたしがそういうと、「そうですね。」と清四郎は苦笑した。でも、この状況を楽しんでいるように見えた。
「もう少ししたら、厚着して、灯油を買いに行きましょう。」
「うん。」
「そろそろ外に出ても湯冷めはしないでしょう。」
清四郎はそういうと、あたしを抱きしめた。
「本当は、ずっとこうしていたいんですけど。」
そういって、キスをする。
あたしも、本当はずっとこうしていたい。
でも、いつまでもこうしている訳にもいかず、布団を畳み、食器等を片付け、外に出ることにした。けれども、雪が邪魔をして玄関のドアを開けることが出来ない。
「駄目ですね。」
「どうしよう。」
あたしたちは裏口に回ってみた。辛うじてドアを開けることが出来た。けれども、シャベルなどの在り処がわからないため、雪掻きも出来ない。
すると清四郎が「管理人さんにシャベルを借りてきますよ。ここで待っててください。」と言った。
「あたしも行く。」
ここに一人で置いていかれるのが、嫌だった。
「駄目だ、悠理。」
清四郎はあたしを見つめた。「すぐに戻ってきますよ。」そう言ってあたしに口づけるとまた一度あたしを見つめて管理人のところへ向かった。


あたしはずっと待っていた。雪は、日が昇るに連れてだんだん溶けて行った。清四郎はいくら待っても帰って来なかった。
どうしたんだろう…。
嫌な…、胸騒ぎがする。
まさか、埋もれていたりしないよね…?。
そう思うといてもたってもいられなくなる。
あたしは裏から出て、管理人のところへ向かう。雪はだいぶ融けて衣服を濡らしながらも、なんとか歩けるようになっていた。清四郎が出ていってから、既に1時間以上経過していた。
どこに行ったんだよ、清四郎…。
あたしは管理人の家に10分もかからないうちに着いた。
「おじさん、あたし、あそこの別荘を借りてるものなんですけど、ここに、昨日ろうそくを借りに来た男性がきませんでしたか?」
「あ~、昨日の人?来てないよ。どうかしたのか?」
「雪を掻く、シャベルを借りようと思って、来たはずなんですけど…。」
「いや、来てないなぁ…。」
管理人のおじさんは本当に知らないようだった。
あたしは来た道を戻った。
もう時間が経ち過ぎて、足跡も風に吹かれた雪で消えてしまっている。
胸が押し潰されそうだった。
なんで…。
どこに行ったんだよ…。

あたしは周辺をぐるぐると探し回った。でも清四郎らしき人物は見当たらなかった。
まるで神隠しにでもあったようだった。
別荘から管理人の家まで通常の歩く速度で10分くらいだった。そんな中で、行方不明になってしまった。
荷物等は別荘においてあるから、あたしを置いてどこかに行こうなんてことは考えられない。
すぐに戻ってくるっていったのに…。
こんな短い距離で、どこに行ったんだよ…。

小一時間ほど彷徨って、別荘に帰ってきた。やはり清四郎は戻ってなかった。その代わり、送電が再開されて、部屋がほんのり暖かくなっていた。
そんな現実が、清四郎とのことを含めて夢だったようで、不安で胸が押し潰されそうだった。
そのときだった。
ピンポーンとチャイムを鳴らす音がした。
清四郎!?
急いで玄関に駆け寄り、鍵を開けた。
「やっと着いた~。」
「おはよ~、悠理。」
「疲れましたわ。」
美童、可憐、野梨子があたしの顔を見ながら口々に言った。
清四郎ではなかった。
あたしは3人の顔を見ながら泣き崩れた。3人はあたしの尋常ではない様子に慌てていた。

警察に清四郎が行方不明になったから捜して欲しいと頼んだ。お昼を食べ終えて小一時間ほどしてから、警察から清四郎が病院にいると連絡があった。
急いで病院に向かうとベッドの上で眠っていた。
看護師の話によれば、足を滑らせて3mの高さの崖から落ちてしまったところを通行人が見つけて搬送したということだった。少し頭を打ったようだったのと、足を骨折をしていたようだったため、痛み止めを処方したところ寝入ってしまったということだった。幸いそんなに酷くないという話で、あたしを含め、皆一様にほっとした。
「あたし、清四郎のそばに居ちゃ駄目かな?」
なんとなく、言い出しにくくて、遠慮がちに言ってみた。
3人の顔を見回して、あたしは言った。
「えーっ、悠理、残るの?じゃあ、僕も残るよ。」
「何いってんのよ。わたしたちが病院に残っていたら、他の患者さんに迷惑よ。」
「そうですわ。看護師さんもいますし、看護できる体制は整ってますもの。別荘に戻りましょう。」
野梨子があたしの腕を引っ張った。
有無を言わせない、強さを感じる。
「ね、悠理、寒いですから、別荘に戻りましょう。魅録もきますのに、皆がいなかったら心配しますわ。」
そう言われて、あたしは頷くしかなかった。

夜近くに魅録がやってきて、5人が揃った。
魅録に清四郎の骨折の話をすると、ひな人形の家のことを思い出したらしく、苦笑していた。
「今度は清四郎か。」そう言って。
昨日の残りの食材で調理し、それなりに楽しくは過ごしたが、清四郎の怪我という事実に皆意気消沈になりがちだった。

翌日、朝早くあたしが乗ってきた車で清四郎が入院した病院に向かった。
病室のドアを開けると、見知らぬ女性と清四郎が話していた。
「大丈夫か、清四郎。」
魅録が近づいていく。
「ええ。すっかり元気ですよ。どうやら、崖から落ちたようで…。みなに心配をかけてしまいましたね。」
「ほんとにびっくりしたよ。警察に捜索願いまで出したんだよ。」
「そうよぉ。何ごとが起こったかと思ったわ。」
「でも、骨折だけで済んでよかったですわね。」
口々に皆が色々と言っていた。あたしは何も言えず、ただ清四郎を見ていた。
昨日の恋情を瞳の中から探すように…。
でも、そんな気配なんて、見当たらなかった。
そして、一緒にいる少し年上そうな、この女性…。
一体、誰…?
「で、こちらの綺麗な女性は?」と美童が見知らぬ女性について尋ねた。
すると照れ臭そうに「僕の…彼女ですよ。北山美弥さんです」と答えた。
「北山です。」そう答えて微笑む。
「僕を心配して、昨日の夜遅くの飛行機できてくれましてね。」
そう言って美弥を見つめる。美弥を見つめる清四郎の目には、信頼の情があった。
あたしは疎外感を覚えた。
視線を合わせようと思っても、清四郎はまるでただの一員のようにあたしを見るだけだった。
「2日位前からの記憶が飛んでしまったみたいで、覚えていないのよ。電話がきて、驚いたわ。」
人の良さそうな笑顔を浮かべ、美弥は言った。
二日前ということは、あたしとのことは一切…。
あたしは軽くめまいを覚えた。
「ほんとに覚えてないのか?清四郎!」
思わず出てしまった言葉。
「ええ。全く。記憶が出張先の空港からしかないんですよ。全く何をしていたのやら…。」
とぼける風でもなく、清四郎は覚えてないように見えた。
「そうなんだ…。」
あたしは呟くようなそういうと、病室を出て談話室に向かった。
見舞い客が歓談しているのを見ながら、どんよりした気分で外の見える席に座る。
昨日のことも、一昨日のことも覚えてないなんて…。
あたしの目からは涙が溢れそうだった。辛うじて清四郎の彼女がこの病院に来ているという事実が涙を止めさせた。
あたしだって、旦那いるじゃん。…きっと夢だったんだ。あれは。

悠理が突然病室を出て行ってしまった。僕は悠理と視線を交わさないようにしていた、から?。
一体、記憶の無い、この2日間は何をしていたんだろう。
僕に対して向けられる友人以上の情を含んだ視線。
交わしてしまったら、僕はそのまま悠理を見つめてしまいそうで、そして美弥の前で抱きしめてしまいそうで怖かった。
「清四郎、一体悠理に何したんだよぉ。昨日だってお前が行方不明だと泣いてたんだよ。」と美童が暢気な顔で言った。
「悠理が?」
僕は戸惑った。
僕が行方不明のときに、悠理は泣いていた…?
全く思い出さない自分にいらついていた。
一体、何があった…?
「悠理さん、て?」
美弥が、僕に問う。
「あ、俺らの仲間だよ。清四郎が突然行方不明になったって、心配しただけなんだ。仲間思いだからな、昔から。」
魅録が誤魔化した。
「そう…。」
美弥はそれでも僕の顔を見た。
「結婚もしているし、美弥さんが心配することはないのよ。」と可憐が言った。
「そうですわ。こんなに素敵な婚約者がいるなんて、清四郎、なんで今まで教えてくださらなかったの?」
野梨子も、美童の足を踏みながら、にっこりとして言った。
美童も涙をポロリと流しながら、にっこりした。
魅録が、「俺、ちょっとタバコ買って来るわ。」と出て行った。可憐も「わたしも、ちょっとジュースでも、飲んでくる。」と言って、一緒について行った。
野梨子と美童はしまった!という顔をして、ここにいる。
そして、なんの脈絡もなく、美童が全く違う話をし始めた。
僕の意識は、記憶が失われた2日間に向けられていた。
ほんとに、何があったんだろう…。

---
頭を打つと、いきなり記憶が飛ぶことが…。
(2006.02.08) りかん
PR

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

プロフィール

HN:
りかん
性別:
非公開

P R

忍者カウンター