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みかんと惑星

有/閑/二/次/小/説/のブログです。清×悠メインです。 当サイトは、原作者様・出版社等の各版権元とは一切関係ございません。 最初に注意書きをお読みいただければと思います。

あじさいと雨宿り

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あじさいと雨宿り

ポツリ、ポツリと雨が、顔に当たる。
「あ、雨…。」
あたしは近くの店の軒先に走った。
今日は寄りたいところがあるから、迎えの車、いらないって言ったんだった。
電話して、やっぱり、呼ぼうかな…。
色とりどりのあじさいの鉢植えが咲いている。薄いピンク、濃い青。…薄い、水色。

そういえば…。
まだ高校生だった頃。
2人で一緒に帰った日のことだった。
梅雨の晴れ間で、その日は晴天だった。
『あじさいの花、綺麗だな!』そんな風にあいつにいったら、『あじさいの花、わかるんですか?』と尋ねられた。
意地悪そうな微笑みを浮かべて。
『わかるわい!。これだろ?これ。』
『どれが花びらですか?』
『これ!』
あたしは4枚に分かれた、黄色がかった薄い水色の花びらを指差した。
あいつはやっぱりというように、バカにしたように笑った。
『これは花びらではありません。がく片というんですよ。こっちの中心にある小さいのが、花なんです。正確には花弁っていうんですよ。』
『へー。』
あたしがさも関心がなさそうに答えると清四郎は呆れた顔をした。
『説明した僕がバカでした。』
あたしは苦笑する。
『そんなことないぞ。きっとな!』
ポンと肩を叩いて、先に歩き出す。
足取り軽く、楽しかった。何をやっても、楽しかったな…。

雨、止まないな…。
段々、雨が強くなっていく。
あたしは軒先からぼんやりと空を眺めていた。
高校を卒業して、大学に入学して少ししてから、あたしたちは付き合いはじめ。
―――1年前。
あたしたちは別れた。
大好きだったはずなのに、すれ違いが多くて。
同棲も解消して、あたしは家に戻った。
『謝る』なんてことはお互いにしないから、ずっと口をきかないまま、そのまま1年を過ごしてきた。
学内で、彼が他の女性と一緒に歩いてるのを見て嫉妬したり、あたしが他の男性と一緒にいるところに彼がたまたま通りかかってバツの悪い思いをしてきた。
別れようって最初に言ったのは、あたしなのに…。
今でも、思い出すと胸がしくしく痛む。
今でも、愛している。
…このまま、びしょ濡れで、帰ろうか。
どこにも寄らずに。
あたしは軒先を出た。
雨が、顔に当たる。
なんだか、心地いい。
このまま、あたしの気持ちも一緒に流してくれれば、…楽なのに。
そんなことを思いながら、歩く。
気の毒そうに通りすがりの人たちが見る。
そんなにかわいそうに見えるんだろうか。
ちょっと可笑しかった。可笑しいけど、悲しかった…。
不意に、後ろから肩を叩かれる。
「あっ…。」
振り返ると、そこには、いつも会いたいと思っていた彼がいた。
「そんなに、濡れて、頭がおかしくなりましたか。」
苦笑しながらあたしに傘を差しかける。
「ありがとう。」
あたしは彼を見上げ、素直に礼を言った。
「珍しいですね。お前が礼をいうなんて。」
そういいながら、あたしにハンカチを差し出した。
「これで、顔を拭きなさい。」
「うん。」
あたしたちは一緒に歩いた。
1年前と変わらない、…つもりだったけれど。
1年という時間は、あたしたちに変化をもたらしていた…。
あたしたちの間に空間が出来ていた。
ほんの、10cmほどだったけれど。
近くて遠い距離…。
あたしは何も話すことができなくて、息苦しい気持ちのまま、駅にたどりついた。
「ここでいいんですか?」
「うん。ありがとう。」
彼を見つめる。彼も、あたしを見つめた。
それはほんの一瞬のことで。
何事もなかったように、「じゃあ、これで。」と彼は踵を返した。
「じゃあ。」とあたしは彼の後ろ姿に呟いた。
期待してはいけないとわかっていたけど、やっぱり、…辛いな。
ふと視界に入る、駅の入り口のあじさい。
まだそんなに青くない、あじさい。
高校生の頃の、あの学校の帰り道のことが頭をよぎる。
切符を買いながら、あたしは流れ出そうになる涙をこらえた。
改札へ向かう。
と、そのとき。
後ろから腕を捕まれた。
「やっぱり、帰るな…。」
大きな胸に引き寄せられる。
「清四郎…。」
心臓が飛び出しそうなほど、ドキドキと大きく波打った。
顔が熱い…。
「僕の家で、雨宿りしていけばいい…。」
彼はそう呟いた。
あたしは彼から少し離れ、彼の目を見て頷いた。
全てが、通じたような気がした。

清四郎と一緒の傘に入る帰り道。
あたしたちの間に空間はなかった。
先ほど、雨宿りした店の軒先に近づく。
「さっき、ここで雨宿りをしていて、あじさいのこと、思い出していたんだ。」
「あじさい?ですか。」
「そう。がく片の話…。」
清四郎は「覚えていたんですね。」と嬉しそうに微笑んだ。
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梅雨といえば、あじさいでしょうか。ということで、あじさいを題材にしてみました
りかん。
(書いたのは5/13・・・。かなり早くから・・・。)

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梅雨祭り(2006.6.1~2006.6.10)企画に参加したときのものです。

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