有/閑/二/次/小/説/のブログです。清×悠メインです。 当サイトは、原作者様・出版社等の各版権元とは一切関係ございません。 最初に注意書きをお読みいただければと思います。
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約3週間ほど入院して僕は退院した。
胃潰瘍と肝炎は完治したが、メニエールは完治したわけではなかった。多少、めまいの症状が軽くなっていたが。
ストレスや疲れを溜めないようにするしかない。
僕は、まず豊作に会うことにした。
悠理のことを何か知っているようだったから。
僕は豊作に連絡をとった。
剣菱邸の豊作の書斎にくるように指示された。
メイドに案内されて、書斎に入る。
夜だったので、カーテンは締めており、ライトは少し落としてある。
「やあ。清四郎くん、久しぶりだね。どうだね?体調は。」
豊作の表情は意外と明るい。妹がいなくなったといっても、そんなに心配している風ではなかった。
「ええ、まあ。」
「何か飲むかい?。バーボンなら、ここにあるのだが、どうする?」
「いえ。お茶で結構です。車で来てますし。」
「そう。まあ、そこに座りなよ。立ち話もなんだから。」
そういいながら、ソファにかけるように勧め、メイドにお茶を頼んだ。
「僕はね、悠理が彼と別れてくれてよかったと思っているんだよ。」
ソファに腰掛けながらそういうと、豊作は手を組んで僕を見ながら苦笑した。
「別れたって、どういうことですか?」
寝耳に水だった。
豊作は笑う。
「ああ、ごめん。正確には未だ別れてはいない。悠理が失踪したことについては、マスコミには圧力をかけていたんだった。実は、悠理がね、離婚届を置いて、出て行ったんだよ。しかもね、悠理の子はあの旦那の子じゃないんだ。」
悠理の子は旦那の子じゃない…。
僕は血の気が引いていくのを感じた。
まさか…。
両手の指先が震え、僕は右手で左手を動揺を隠すように抑えた。
「両親がね、悠理の旦那に離婚届を見せ付けられて、そしてDNA鑑定書を見せられたんだ。僕はあとでそのコピーを見せてもらったけど、驚いたよ。全く親子関係がなかったんだから。」
豊作は苦笑しながら、続ける。
「びっくりしたよ。悠理が浮気だなんてね。そして、その子供を…、皆を騙して生むなんて。」
言葉を失った。
その浮気相手は清四郎本人だったから。
「あの旦那、なんて言ったと思う?」
豊作はおかしそうに言った。でも、目は全く笑っていなかった。
メイドがドアをノックしてお茶を運んできた。
豊作はメイドが去ってから、また話し始めた。
「離婚してやるし、このことは、つまり浮気をしていたことだね、黙っていてやるから、自分の会社に融資しろと言ってきたんだよ。勿論、両親は怒ってね、そんなはした金、すぐに出してやるから出て行けって。離婚届はその場で判を押させて、小切手切って、縁を切ったよ。彼の会社の経営状態、本当によくなかったみたいだ。」
豊作はふーっと、長いため息をついた。思い出すだけで苛々するのか、苦虫をかみつぶしたような顔をした。
悠理の両親は脅されていた、のか…。
だから…。
「おじさんとおばさんは、だから悠理を探さなかったんですか?。」
「そう。今、探し出したら、それこそ悠理も、剣菱もスキャンダルまみれになってしまいそうだったからね。融資した記事が週刊誌に載ってしまったから。だから、離婚届は、まだ出してないんだ。」
そう、だったのか…。
悠理と剣菱を守るため…。
全ては僕が悪いのに…。
悠理にちゃんと確かめもせず、インドへ行ってしまった…。
もし、ちゃんとあのとき確かめていれば、悠理に、そして悠理の周りの人々に辛い思いをさせなくとも済んだかもしれないのに。
辛い思い自体はするかもしれないが、ここまで大事にはならなかったかもしれない。
そう思うと僕の気分は沈んで行った。
「しかし、…。」豊作はお茶をすすると僕の方を見て言った。「悠理は誰の子供を生んだんだろうね。」
豊作の問いに僕は一瞬目を伏せ、そして豊作を真っ直ぐに見た。
豊作ははっとしたように僕を見る。
「まさか、…清四郎くんの子じゃないだろうね?」
豊作を見つめたまま、僕は頷いた。少し、唇が震える。
「おそらく、僕の子だと思います。僕は悠理のことを、愛しています…。」
僕は真剣だった。
愛しているという言葉に偽りはなかった。
豊作は息を呑み、ふっと小さくため息を漏らすと、僕を見て微笑んだ。
「そう。…君かもしれないんだ。君が義弟だったほうが、どれだけよかったか…。」
豊作は怒っても呆れてもいなかった。
ただ、静かに微笑んだ。
豊作を訪問してから2ヶ月が過ぎた。
もう、季節は春だった。
悠理の旦那の会社はとりあえず規模を縮小したようだったが、継続していたようだった。
そんな記事を雑誌で見つけた。
「ふうん。」コーヒーを飲みながら独りごちた。
窓辺に行き外を眺める。
悠理はこの広い東京の空の下にいるのだろうか…。
それとも、全然違う土地に行ってしまったのだろうか…。
探偵等を使い、悠理を探していたが見つからなかった。
手がかりが一切ない。
親戚・友人・知人、誰も悠理の居場所を知らなかった。
勿論、悠理の両親も豊作も知らない…。
毎日、何もせず、こうして空を見ている。
職にもつかず、一人暮らしのマンションで時々机の中から悠理の写真を眺めながらぼんやり過ごしていた。
豊作に会ってしばらくしてから、会社には辞表を出した。
めまいのほうは大したことはなかった。
でも、悠理が見つかるまで、職につきたくなかった。
僕の両親はただ職にもつかず、ぼんやりしている息子の不可解な行動にあきれ返っていた。
姉も最初は気にとめていたが、何か考えるところがあるのかと放置してくれている。
僕は悠理を見つけることが出来るんだろうか。
一体、どこに行ったんだ…。
頭の中は悠理のことしかなかった。
このまま会えなければ、本当に会えなければおかしくなってしまいそうだった。
どうすれば、いいんだ…。
---
私の中では終わりが見えてきました。
(2006.02.26)りかん
---
なんか文章が、変…。
(2006.02.24)りかん
やっと悠理編はおしまい。次の回は清四郎。
(2006.02.22)りかん
翌日、あたしは青佳を迎えにいき、旦那のいない日々を2人で平和に過ごした。
旦那が帰ってくる日、また寝入りを蹴られるんじゃないかと思い、帰ってくるまで待とうかと思ったが、0時を過ぎたので寝ることにした。お風呂に入り、寝室のベッドに潜り込む。
すると、玄関が開いたような音がした。旦那が帰ってきたようだった。
ごそごそと自室に入る音がする。
ちょっと自室に真っ直ぐに入ってくれてほっとした。今日は何もなさそうだ…。
だが、自室で寝るとばかり思っていた旦那があたしの寝室のドアを開けた。夫婦なので入ってきても不思議はないのだが、嫌な予感がした。寝たふりをしているとあたしの隣に入ってきた。反対側には青佳が寝ている。すやすやと青佳は寝息を立てていた。旦那は特に何をするでもなく、暫くそのままでいた。あたしが何もしてこないことに安堵したその瞬間、パジャマを捲くり、中に手を伸ばしてきた。
やだ!
そう思った瞬間に旦那を突き飛ばし、青佳を抱えて部屋を飛び出していた。
振り返ると突き飛ばされた旦那はおそらく初めて見るあたしの怪力に呆然としていた。
あたしはパジャマ姿で外へ飛び出した。とりあえず、実家に戻ろう。そう思った。青佳が泣いているため、通り掛かる人が何ごとかと余計に振り返る。そんなのは構っていられなかった。
「悠理!」
呼ばれて振り返るとタクシーに乗った野梨子に呼び止められた。
「どうなさいましたの?。私、家に帰るところですから、とりあえずお乗りなさいな。」
あたしは黙って頷くと野梨子の言うとおりにタクシーに乗り込んだ。
野梨子の住むマンションは野梨子の実家から徒歩15分ほどの距離にある。
野梨子は別に実家にいてもよかったのだが、何かと生活が不規則なため、一人暮らしをしていた。
あたしを居間に通した。
「今日はうちに泊まっていくといいですわ。」
あたしは頷いた。
青佳を自分のベッドに寝せると野梨子はあたしに紅茶を出した。甘い紅茶は今のあたしにとても優しく感じられた。
「ねえ、悠理。」
「何?」
「最近、ご主人とうまくいっていませんの?」
あたしは黙った。たぶん旦那は野梨子にまで連絡したのだろう。
「とても心配してましたわ。」
あたしの目を覗き込む。
「あぁ、そういえば。」
野梨子が何か思い出したようだった。
「悠理のご主人が先日うちにいらした時に神妙な顔をして帰りましたのよ。」
先日うちにいらした?
あたしはまずここでひっかかった。なんで野梨子の家に?。野梨子の家にいったなんて一言も聞いてなかった。
「うちに、いらしたってどういうこと?」
野梨子は意外そうな顔をした。
「あら、悠理。あなたのご主人はお茶を習ってらっしゃるのよ。あなたたちが結婚してまもなくですから、随分経ちますわ。」
旦那がお茶?しかも結婚してまもなくって…。
どうしてあたしに黙って習ってるのかそれも不思議だった。
「あたし、聞いてない。習ってるってこと。」
野梨子は笑った。
「まあ、隠し事の多い夫婦ですのね。夫婦で隠し事はいけないわ。悠理もね。」
悠理も、って。何か知ってるの?あたしたちのこと。
どきりとした。
野梨子はあたしの動揺を気にする風でもなく、続けた。
「今は楽しんでお茶をたててますけど、そもそもご主人が、お茶を習い始めた要因は悠理にあると思いますわ。」
「あたしに?」
「ええ、そうですわ。習いに来た当初、悠理のことばかり、私に聞いていましたもの。それで、あるとき聞いてみましたのよ。”悠理に直接聞いてみませんの?”と。そうしたら”悠理は自分のことを語りませんから。食べ物の話になると雄弁になるんですけどね”と言ってましたわ。」
確かに、何か聞かれても大して興味がなくて”うん。”とか”そう”とか適当にしかしか答えてなかった。”学生時代はどうだったの?”、”いまと大して変わらないよ。”、”初恋は?”、”そんなもんあったかな?忘れた。”等々、会話を思い出す。
「先日も悠理の家に遊びにいった話をしましたのよ。そしたら、たいそう驚いてらして。」
”誰か来たの?”と確かに聞かれた記憶がある。そのときは”うん、まあ”で会話を終わらせていた。言う必要もないと思っていたから。
「青佳ちゃんの血液型の話をしたら、なんだか神妙な顔をなさっていたわ。どうなさったの?と聞いたんですけど、ただ笑っていらして。間違いってこともあるかもしれないからって。」
「そうなんだ。」
そうか…。血液型は野梨子からわかってしまったんだ。
どうして旦那が青佳との親子関係に疑いを持ったのか理由がわかって、ちょっとすっきりした。
けれども、あたしのことを知るために、野梨子に近づいていたなんて…。
そう考えるだけで、ぞっとした。まるで、ストーカーだな…。
野梨子と彼は繋がっている。
下手に野梨子に何かしゃべれば、きっと彼にあたしの行動が筒抜けになる。
あたしの行動は周りの人間から旦那に筒抜けになる…。
こうして、ここにきたのだって、もう既に筒抜けになっているに違いない。
厄介なことに、両親も野梨子も旦那を信頼していた。
二人とも、いい旦那さんという。
可憐に話しても、きっと同じ答えが返ってくるだろう。
とりあえず、明日は一度家に帰って対策をねろう…。
あたしは紅茶を飲み終えると野梨子に布団を敷いてもらって床についた。
翌日、朝起きてからあたしは今後どうしようかと考え込んでいた。
その様子を見ていた野梨子は苦笑した。
「どうしましたの?」
「家に帰りたくないなと思って。」
「また、そんなことを。」野梨子は呆れたような顔をした。
「とりあえず、家に帰って仲直りしなさいな。昨日、連絡はしておきましたから。そのときに言われましたのよ。”愛しているから戻ってきてほしいと伝えて欲しい”って。本当に悠理に惚れていますのね。」
野梨子は微笑みながら暢気な様子でいった。
あたしは笑って「そうだな、家に帰るよ。」と答えたが、仲直りするために家に帰ろうと思ったわけではなかった。これからどうするか帰って考えようと思ったからだった。
「その服装では帰れませんわね。あとで服を買ってきてさしあげますわ。」
野梨子は微笑んだ。
野梨子に買ってもらった服を着て家に帰った。
家に帰るとお手伝いさんだけがいた。
「奥様、おかえりなさい。」
「あ、うん。旦那は?」
「仕事に行かれましたよ。今回は5日ほど戻られないそうです。」
「あ、そう。」
あたしは青佳をお手伝いさんに預けて自室に入った。
おきっぱなしの携帯にメールが入っている。旦那からのメールだった。そこには、”青佳をどこかに預けて二人で一からやりなおそう。愛している。戻ってきてほしい、悠理。”と書いてあった。不快感を覚えた。青佳を手放すことなんて考えられなかった。清四郎から贈られたたった一つ宝物なのに。それを手放してなんてありえなかった。あたしは旦那と別れたいと強く思った。
だが、彼の手が届かないところに逃げるにはどうすればいいんだろう…。
実家も野梨子も可憐も彼と懇意だ。
悪いのはあたしだけど、このままでは彼からは逃れられない。
---とりあえず、お金…。
結婚前の貯金通帳をひっぱり出した。使うことがなかったからそのままだ。
5000万円あった。もう少し貯金しておけばよかったと後悔した。
---海外へ逃げるか?
---でも青佳のパスポートもないし…。
申請して待つのさえ、時間が惜しかった。この家にはいたくなかった。
こんなとき、清四郎がいてくれたら。
もうすぐ清四郎が旅立って一年になる。
そして青佳が生まれて一年。秋は深まっていく。
翌朝、あたしは電話の音で目が覚めた。
「はい…。」
『僕だ。』
旦那だった。
『いま、宮崎にいるんだ。4日後には帰るよ。』
旦那の声は不気味なほど優しかった。
「うん…。」
『僕のメール読んでくれたかい?』
「う…ん。」
『返事もないから読んでくれてないのかと思ったよ。愛してるよ、悠理。』
「…。」
『一からやり直そう。青佳はどこかに預けて、二人きりで。そして僕たちの子を育てよう。青佳を里子にだすなら早いほうがいいな。早速、帰ったら相談に行こう。』
嫌。
「嫌だ。あたしは青佳を手放したくない。あたしは…。」
あなたと別れたい。
そう言いかけて黙った。
『そんなの君のわがままだ。僕は僕以外の父を持つ子は育てられない。君が手放すべきだ!』
最後は怒鳴り声だった。あたしは黙って電話を切った。
この人とはもう一緒にはいられない。
あたしは電話を切るといつも頼んでいるベビーシッターを呼んだ。
魅録に相談するために、一時的に預けた。
あたしは魅録の職場に向かった。
「松竹梅魅録さんの高校の同級生の佐藤悠理と申します。本日松竹梅さんとはお約束をしていないのですが、お会い出来ないでしょうか。」
努めて明るく受付に話し掛けた。
「佐藤悠理さまですね。少々おまちくださいませ。」
「はい。」
笑顔を絶やさず控目な感じで返事をした。
黙ってにこにこしてれば美人でいいお嬢さんに見えるのに、と大学生の頃に美童から言われ、練習した。いつか、清四郎に大人になったあたしを見てもらいたかったから。でも清四郎と会うと地が出てしまうかまともに会話ができないかどちらかだった。
そんなことを待ちながら思い出していた。
「佐藤さま、松竹梅ですがただ今参りますので暫くお待ちくださいませ。」
「はい。」
5分ほど待つと魅録が現れた。
「やっぱり、悠理か。また偽名使って。」
呆れ顔で話し掛ける。
「だって、あたしの名前知ってるやつがいるかもしれないじゃん。」
あたしはいつも偽名を使って魅録を呼び出す。佐藤、鈴木、高橋、佐々木…。ありそうな苗字ばかりだ。
魅録は苦笑すると悠理の背中に手を当てて、ビルから出るように促した。
近くの喫茶店に入る。
「旦那から聞いたよ。」
入って座るなり煙草に火をつけて、フーッと息を吐き出した。さっきとは打って変わって険しい表情をする。
「お前、旦那と喧嘩して家出してんだろ。旦那がかなり心配して捜し回ってたぞ。あんまり心配させんなよ。」
魅録のところまで、彼は…。
「で、どうしたんだよ。今日は。またあそこの店でトンカツ食いたいとかは無しだぞ。」
あたしは出されたコーヒーに口をつけ、魅録を見た。
「お前を親友だと思ってるからいうけど、旦那にも誰にも言わないで欲しいんだ。」
あたしは魅録に切り出した。清四郎のことなどは話さなかったが、自分の気持ちが完全に離れてしまったことなどを簡潔に話した。
「あたし、旦那とはもう一緒にいることは出来ない。離婚したいんだ。」
魅録は暫く言葉を失っていた。
「何があったんだよ。」
漸く口を開いたのに、あたしは魅録を見つめて、「…言えない。」というと黙り込んだ。
言えるはずがなかった。青佳が清四郎の子で、それが原因で暴力を振るわれたなんて。
振るうのは悪いが振るわれても心情的に仕方ないことをしている。一年以上自分の子だと信じていた彼を裏切った訳だから。
「とりあえずあたしが悪いんだ。彼はもともと悪くないんだ。でも、駄目なんだ。…家を出たい。」
もともとあたしの中には愛はなかった。嫌いではなかった。むしろ好きなほうだった。一緒に暮らしていて情も移っていたが、青佳を手放してくれと言われた瞬間に、その情もどこかに行ってしまった。今では嫌悪感しかない。
魅録は暫く考え込んでいだ。
「旦那と話し合いはしないと駄目だと思うぜ。逃げても何も解決にはならないから。」
尤もな意見にあたしは曖昧に頷いた。
話し合いで解決できるなら円満に解決したいが、そんな訳にもいかないかもしれない。
あたしがいない間に青佳を…。
ハッとした。いつものベビーシッターに預けた青佳。あのベビーシッターは旦那と懇意だ。
危ないかもしれない。
「ごめん、魅録。呼び出しておいて悪いけど子供が心配だから帰るよ。」
あたしは立ち上がり、店を出た。
魅録が後ろから「心配ってどういうことだよ!」と声をかけたが、あたしは振り返りもせずに家に向かった。
---
逃げたいけど、旦那からどうやって逃げればいいのかわからない悠理。皆、旦那はいい人といっていて、悠理には逃げ場がないです。他の人からすれば、いい人なのに何故?という話です。
百合子は説得次第でわからないけどねぇ。
(2006.02.19)りかん
旦那が変だったときから2週間が過ぎた。その間、あたり触りのない会話をし、一見旦那は普通に見えた。
気のせいか、とあたしは思っていた。
その日、旦那の帰りは早めのはずだった。
でも、帰ってこなかったので、あたしは先に寝てしまった。そんなのはいつものことだったのだが。
寝ていると、突然誰かに頭を枕で押さえつけられた。
息苦しさで目を覚ますと酔っ払った旦那が充血した目であたしを見下ろしていた。
顔が凄く赤く、そして、憎悪に満ちた表情をしている。
「何すんだよ!」
枕に押さえられながら、声を上げた。思うように声が出ない。息苦しさが増す。手で振り払おうとするが、逆に手を捕まれる。そして、思い切り頭を殴られた。
「いたっ!!」
(殺される…。)
そう思った瞬間に手の力は緩められ、続いて髪を引っ張られて布団から出された。間髪なく頬を殴られる。
唇が切れて血が滲む。
「何するんだよ!寝てる間に卑怯じゃないか!」
旦那を睨みつける。あたしは応戦するつもりだった。座った姿勢のまま、頭を押さえられている。立ち上がるにも、立ち上がれない。
今度は続けざまに背中とわき腹を蹴られた。
「うっ…。」
あたしは痛さで体を折り曲げる。その瞬間、旦那が頭を押さえていた力を緩めた。
(いまだ…。)
あたしは体が痛かったが、そのまま旦那を殴りつけようとした。
すると、旦那は突然、大きな声であたしを制した。
「お前に僕を責める権利があるのか!ずっと僕の子だと思って育てて来たのに…!。青佳は僕の子じゃない!!!」
あたしは青ざめた。
「なんで…。」
そんなことを…。
旦那はDNAの検査結果の紙をあたしに投げ付けた。”生物学的父親ではない”、”0.0%”という数字が目に入る。
「どうして、検査なんか…。」
あれだけかわいがっていたのに、何故検査を?
微塵も自分が父親だということを疑ってないように見えたのに。
「ある人が教えてくれた。青佳がA型だってな。OとBからAは生まれない。」
「ある人って…。」
「言う必要ない!」
そう言って呆然としているあたしを再度殴った。
その後旦那は自室に入って行った。
鏡で顔を見ると頬のあたりが腫れていた。蹴られたところも内出血はしていなかったが、痛い。
口も殴られて切れていた。血がにじんでいる。
青佳はベッドの端で何事もないようにすやすや眠っている。
怒りの矛先が青佳に向かなくてよかった。それだけは安堵した。
あたしはベッドにもぐりこみ、青佳を抱きしめた。
翌朝、眠っていると突然布団を剥ぎ取られ、背中を蹴られた。
「いつまで寝てるんだ!」
旦那はあたしに憎悪の目を向けていた。
あたしは蹴られた背中をさすりながら、布団から這い出た。本当に旦那を殴ろうと思った。
すると「お前に殴れるのか?僕を。他人の子を育てさせておいて!」と旦那の怒りは収まらない様子であたしに言った。「僕がどれだけあの検査結果で傷ついたと思っているんだ!。」
あたしは閉口し握っていた手を開いた。いま、殴ろうと思えば彼を殴ることができた。
ただ、彼に闇のような深い憎悪の感情を与えたのはあたし自身だった。
他人の子を騙されて、自分の子として育てさせられたら、やっぱり、恨んだり憎んだりするだろう。
そう思うと殴ることができなかった。
旦那はあたしにどうしようもない怒りをぶつけるためにティッシュの箱を投げ付けた。あたしはつい咄嗟に避けてしまった。すると忌ま忌ましげにあたしを平手で殴ろうとした。反射的にサッとかわす。
旦那は舌打ちすると青佳に向けて手をあげようとした。
青佳が…!。
あたしは咄嗟に庇った。そして、また十数発殴られた。ただならぬ気配で目覚めた青佳は、火のついたように泣き出した。
旦那はその声で殴るのをやめ、部屋を出て行った。
このままじゃ、いずれ青佳まで殴られてしまう。青佳だけは守らなければならない。
あたしは旦那が会社に行ったあと、実家に帰ることにした。
実家に帰ると母が心配そうな顔で迎え出た。母はあたしから青佳を抱きとりながら「聞いたわよ。喧嘩したんですって?。殴ってしまって本当に申し訳ないことをしたって、電話がきたわ。」と言った。
「あ、そう。」
「それから、ちょっと強くいい過ぎたから、もしかしたらそちらに行くかもしれませんが、もしそっちに行ったときには傷ついているだろうから優しくしてあげてくださいって心配してたわよ。一体何があったの?」
「何でもない。第一喧嘩なんかしてないし…。」
「悠理。」
母はあたしを見つめた。
「あんなに優しくていい旦那さん、おまえには勿体ないくらいなんだから、大事にしなさい。」
「…。」
あたしは無言で自室に篭った。
優しくて、いい旦那さんか…。
あたしが裏切らなければ、あたしもそう思っていたかもしれない…。
殴られた頬が痛んだ気がした。
夜になり旦那が迎えに来た。あたしの部屋に入って来る。
すると今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「悠理、僕は君を愛してるんだ。さあ、僕たちの家に帰ろう。」
「いやだ!」
あたしの腕を引っ張る。
旦那の怒りのスイッチが入ったようだった。目がきりりとつりあがる。
「君が家に帰らない。そして浮気をして子をもうけたことがマスコミにバレたら、僕だけじゃなく、君の両親や豊作兄さんにも迷惑がかかる。剣菱グループ全体のスキャンダルとして取り上げられるんだぞ。」
強い口調で言う。
あたしは黙りこんだ。
5年前のあたしであれば、スキャンダルが何?って、言っていただろう。
でも、もうそんなことは言えない。青佳のこともあるし、今はインドにいる清四郎や清四郎の家族にも迷惑がかかるかもしれない。
「さあ、帰るんだ。」
あたしは嫌々ながら家に帰ることにした。青佳が一緒にいて狙われたら嫌だったので、今日は母に頼んだ。
家に帰るとお手伝いさんの作った夕飯を二人で食べた。会話は全くなかった。
会話もなくて、本当に家に戻ってきてよかったんだろうか…。
その日もまた旦那は別室で寝た。あたしは少し安堵した。
翌日から旦那は二週間出張に出掛けた。
あたしはまた蹴られないようにその朝だけ起きた。朝食は一緒に摂ったが、会話はなかった。玄関まで見送り、「いってらっしゃい。」とだけ声をかけた。旦那は何も言わずに出て行った。
---
おそらく皆さんの予想どおりの結果だったのではないでしょうか。
とりあえず、暴力は今回だけだと思われます。
(2006.02.14)りかん